#282 試着前後のやりとり
坂本(2003)は、接客販売における販売員と顧客の対話を分析し、言葉の機能や特定の語彙が購買にいかに効果的に働くかという「言語効力」について定量的な分析を試みています。
この研究では、販売員と顧客の心的距離を測る尺度として、神尾(1990a, b)の「情報のなわ張り」理論を援用しています。これは、ある情報が話し手と聞き手のどちらのなわ張りに属するかによって、言葉が直接的な表現になったり、間接的な表現(「ね」などの終助詞の有無など)になったりするという概念です。また、心的距離の測定について、敬語の使用率が高いほど心的距離は「遠く」、常体(ため口に近い表現など)の使用率が高いほど距離が「近い」と判断する指標として用いられています。
具体的な分析にあたっては、購買プロセスを「情報探索」「選択・代替案評価」「態度・意図」「購買決定」の4つに定義し、それぞれのプロセスで「内容伝達」「働きかけ」「接触・融和」「儀礼」という4つの言語機さらに、試着という行為によって、顧客の視点は「かわいい」といった感性的な評価から「サイズ」などの実用的な評価へと変化し、販売員とのインタラクション(相互作用)が強まります。商品が予想以上に良い場合はすぐに購買に繋がりますが、そうでない場合には販売員による「後押し」が重要になってくることも明らかになっていました。ここでベテランは、ルーキーと比較して特に「着こなし」に関する具体的な提案を効果的に行っており、これが顧客の評価尺度を変化させ、購買を決定づける言語効力として働いていることが明らかになりました。
参考
坂本和子. (2003). 接客販売にみる言語効力の一考察―ファッション販売における対話分析を中心に―. 消費者行動研究, 9(1・2), 75–90.
神尾昭雄. (1990a). 情報のなわ張り理論. 言語, 19(4), 44–51.
神尾昭雄. (1990b). 情報のなわ張り理論. 大修館書店.
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[説得] [敬語]
p.78