#257 動物も人間も
今回は、あいさつの本質について考えるなかで、鈴木孝夫先生の『「あいさつ」とは何か』を拝読しました。
本の中では、イギリスの人類学者マリノフスキーが提唱した「phatic communion(話すことによる一体化)」という概念が紹介されています。マリノフスキーが未開社会の生活を詳しく調査したところ、人々にとって「出会った相手が口をきかない」という状況がいかに不安や恐怖を抱かせるものであるかが明らかになりました。つまり、言葉を交わす「あいさつ」という行為そのものが、情報を伝えるという目的以上に、人と人とを心理的に安定した共通の場に引き入れる重要な役割を持っているというのです。
これは人間だけに限った話ではありません。動物の世界でも、犬が互いの臭いを嗅ぎ合ったり、サルが独特の叫び声やジェスチャーを交わしたり、あるいは鳥が声を上げたりといった例が挙げられています。
このセクションの締めくくりには、次のように記されていました。
「結局は動物でしかない人間も、他者との社会的接触から個体が受ける本能的な不安や反撥を押さえ、相互の位置関係(力関係)を決定し、それに基づいた共同行為を円滑に行うためには、絶えず相手と記号による一体化を図りながら、社会関係を調節していく必要があるのだ。このような心理的な仕組みを踏まえて、話し手と聞き手の両者が、相互に伝達可能な状態に入り、そこにとどまるための物理的心理的な結合をつくり出す機能として言話的(phatic)機能が立てられたのである。」
参考
鈴木孝夫(1981).「『あいさつ』とは何か」. 「ことば」シリーズ14 あいさつと言葉. 34-46. 文化庁
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[あいさつ] [交感的コミュニケーション]