#255 言語生活研究
東(2009)を読み返す中で、アメリカの社会言語学が世界の潮流の中心であるという現状を踏まえつつ、翻って「日本にそのような学問は存在したのか」という問いが立てられています。
日本の言語研究の歴史を辿ると、昭和初期(1930年代頃)には、言語学者の金田一京助が社会と言語の関係にいち早く着目していました。金田一は「言語生活」という用語を創案し、「言語とはそれを使う人間の生活に密着したものである」という先駆的な視点を打ち出しています。さらに、国立国語研究所のような公的機関が、方言や共通語、敬語の分野における言語使用の変化について社会言語学的な調査を継続的に行ってきたことも、日本における研究の大きな特徴と言えます。
この日本独自の「言語生活」研究について、山東(2015)は、その定義や研究者間での認識の相違を詳しく概観しています。山東は、この用語をめぐる状況について「『言語生活』という術語をめぐっては、論者それぞれの立場が色濃く反映されており、まとまった統一見解というものは存在していないと考えたほうがよい」と言及しており、その概念がいかに多義的であったかを示唆しています。
具体的な見解の相違として、山東は西尾(1961)と時枝(1955)の対比を挙げています。西尾は、「ことば」という語には言語生活としての側面があることを認めつつも、言語の抽象的な本質的要素を別に画定した上で、「言語生活」を言語の外延的な営みとして捉えています。対照的に時枝は、言語そのものがすなわち「言語生活」であると考え、言語という概念自体をより広く包摂的に捉えようとしました。
このような西尾と時枝の捉え方の違いは、言語をシステムとして認識する伝統的な言語学と、社会における実践として捉える社会言語学の対比関係を彷彿とさせます。
参考
東照二. (2009). 社会言語学入門<改訂版>: 生きた言葉のおもしろさに迫る. 研究社.
山東 功(2015)「『言語生活』小考」『言語文化学研究:日本語日本文学編』10, 9-24
西尾 実(1961)『言語生活の探求』岩波書店
時枝 誠記(1955)『国語学原論 続篇』岩波書店
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[社会言語学]