#253 ウチに引きずり込まれる
昨日はお誘いをいただき、浅草でレガッタの試合を観戦してきました。
晴れ渡る空の下、広い川を眺めながら応援の声を聴き、缶ビールを片手に過ごす時間は、まさに幸せな瞬間だったな・・・としみじみ思い返しています。
観戦後はそのまま歩いて、路上呑みができるお店へ足を運びました。そこで交わしたママさんとのやりとりが、非常に印象深いものだったのでご紹介します。
以前その店にいた別の店員さんの姿が見えないので、ママさんに尋ねてみたところ、正確な言い回しは失念してしまいましたが、こんな答えが返ってきました。
「あいつね〜、あいつはアル中で大変なんだよ〜。働くと同時に飲み始めちゃって、そのうち店の中でひっくり返るから、私達も困っててさ。今は平日だけにしてもらってんの。一緒に働きたくないって子もいるしさ〜。」
ほぼ初対面といってもいい私たちに対して、言葉遣いもさることながら、まるで古くからの友人であるかのように、身内のディープな事情(しかも、あまり好ましくない話)を話し始めたのです。また、熱燗の入った「やかん」を「いい入れ物ですね」と褒めると、「これ、実家帰ったときに見つけたんだよね〜。銀でできてんの。重曹につければきれいになるし楽だよ〜。」と、これまた親しい知人のような調子で返してくれます。
私たちはその勢いにあっけにとられつつも、不思議と心地よい距離感に包まれ、新参者ながら仲間に入れてもらったような温かい気持ちになりました。
このやりとりを通じて思い出したのが、東(2009)による「コードスイッチング」の考察です。
ここでの「コード」とは、言語や方言、あるいは「話し方のスタイル」を指します。東は、テレビ番組『鶴瓶の家族に乾杯』での笑福亭鶴瓶さんの話し方に注目しています。番組開始当初、鶴瓶さんは「ここ、実家なんですか」といったフォーマルな丁寧体(です・ます体)を用いますが、交流が進むにつれて「わかった?」「食べてーな」といったインフォーマルな親密体(だ体)へとスイッチしていきます。この変化は、意図的に心理的距離を縮め、相手との親密な関係をその場で構築するプロセスとして有効に働いていると指摘されています。
つまり、言葉の切り替えが単なる情報の伝達を超え、相手との「ウチ」の関係を作り出すきっかけになっているのです。
今回のママさんの場合、鶴瓶さんのように徐々にスイッチするのではなく、最初からフルスロットルの「ウチ」のトーンで話しかけてきました。最初からこうした振る舞いが受け入れられるのは、私たちが抱く「居酒屋のママさん」というキャラクターへの期待やイメージもあるのかもしれませんが、短い時間その場を楽しむ分には、とにかく心地よく楽しい体験でした。
参考
東照二(2009)『人を惹きつける「ことば戦略」 ことばのスイッチを切り替えろ! 』. 研究社.
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[コードスイッチング] [ウチ]