#222 テロップの背後に
テレビ番組の文字テロップについて、楊(2025)の論文に基づき先行研究の知見を整理すると、そもそもテロップとは「工学的映像装置(television opaque projector)」の頭文字をとった合成語であり、特に日本のバラエティ番組において頻繁に使用されていることがわかります。
楊は、この文字テロップの機能について、単なる発話の字幕化にとどまらず、「出演者の発話を引用・再編成することで、番組制作者が意図する意味を放送内容に付与し、再コンテクスト化(recontextualization)させる役割」を果たしていると述べています。
また、マリィ(2013)による「おネエことば」の表象に関する議論を引用し、文字テロップがGumperz(1982)の提唱した「文脈上の手掛かり(contextualization cue)」として機能している点を指摘しています。これにより、視聴者に対して「ユーモアに富んだ非現実的な世界」という解釈の枠組みが提示されることになります。
楊の研究では、特に出演者による「言い間違い」などの逸脱的な言語使用に注目しています。これらにテロップを付与することで、その逸脱を強調し、視聴者の笑いを誘発する「笑いの対象」へと再コンテクスト化させるプロセスを以下の2つのフレームから分析しています。
収録フレーム
出演者の逸脱性があらかじめ前提とされている場合(例:特定のキャラクターが定着しているタレントや、非母語話者による不完全な言語使用など)に適用されます。ここでは修正の機会が提示されず、テロップによってその逸脱性がさらに際立たせられます。
交渉フレーム
普段は逸脱性と結びつかない出演者(例:俳優の山﨑賢人や吉沢亮)が言葉を嚙んでしまった場合に、スタッフによる指摘ややり取りをあえて放送し、逸脱を笑いの対象へと昇華させる手法です。実際の放送例では、噛んでしまった箇所をゴシック体やバラバラな配置のフォントで表現するなど、視覚的な演出によって「おかしさ」が強調されます。
このように、私たちは普段何気なくテレビを視聴していますが、テロップという視覚情報を介して、番組側が設定した解釈の枠組み(言語イデオロギーやキャラクター設定など)を無意識のうちに受け入れている可能性があります。文字テロップは、単なる情報の補助手段ではなく、視聴者の認識を巧みにデザインする装置であると言えるかもしれません。
参考
楊 留 (2025). 「バラエティ番組における言語イデオロギーとキャラクタ ―逸脱的な発音の演出に着目して―」『社会言語科学』 28巻1号, 202-217.
Gerow, Aaron (2010). Kind participation: Postmodern consumption and capital with Japan’s Telop TV. In Yoshimoto, Mitsuhiro, Tsai, Eva, & Choi, Jungbong (Eds.), Television, Japan and globalization, pp.117-150. Michigan: The University of Michigan.
Gumperz, John J. (1982). Discourse strategies. Cambridge: Cambridge University Press.
マリィ, クレア (2013). 『「おネエことば」論』. 青土社 .
keywords
[コンテクスト化の合図] [フレーム]