#218 あえて聴かない
研究室の掃除の合間の読書が、最近の平和な時間となっています。
鷲田清一さんの『大事なものは見えにくい』の中で、「あえて聴かないこと」のセクションが印象に残りました。そこで会話の不思議として述べられているのは、相手の言葉を全部受け止めようと構えると、かえって聴かれる側の言葉はよそよそしくなり、自然さが消えてしまうということ。逆に、聴かないふりをすると、言葉は妙に自然になる。「ちゃんと聴くには、あえて聴かないふりをすることのほうが効果的なことがある」というのです。
もちろん、授業などをする側としてこれをやられたらたまったものではありませんが、少人数、特に一人の時で、相手に何か不安事を相談するときなどはまさにこれだなと思います。
私の中では、指導教員や、神社などで神様に祈る時(笑)というのがまさにこれにあたります。何か具体的な反応やアドバイスを求めているわけではありません。なぜなら、どうにかしなければならないのは自分自身だからです。私にとっては、時間を共有してもらっているというそのプロセスが大事で、自分がとにかくバーっと話すことで自分自身の考えをまとめることが必要なのだと思います。
本の中では、臨床心理家などのほかに「聴くことの別のプロ」にも触れられています。たとえばカウンターの向こうにいるママやバーテンダーは、聴かなかったことにする、はぐらかす、からかう、といった形で、逆にちゃんと聴くという不思議なわざをもっているといいます。
それでもなぜ客の心がほぐれるのか。それは「客のぐだぐだに最後までつきあってくれるからだろう」と書かれています。「(わたしの)時間をあげる」、このことが聴いてあげるということの本質であり、相手の口上を認めるだけが適切な対応ではないということなのだそうです。
この時間や空間の共有という話から、井上(2021)の「一言付け足すのも『つながり』的」というセクションを思い出しました。「会話は、時間と空間を共有する。たとえインターネットのコミュニケーションでも、ネット上の空間は共有される。時間と空間の共有は、『つながり』そのものだ。『一言付け加える』とは、時間と空間を付け加えるということである。」
ここでの「つながり」はポジティブ・ポライトネスのことを指しています。
自分の中でほっとするコミュニケーションがどのような仕組みでそうさせているのか調べてみたいなと思う今日この頃です。
参考
井上逸兵 (2021) 『英語の思考法―話すための文法・文化レッスン』ちくま新書 .
鷲田清一(2012)『大事なものは見えにくい』角川ソフィア文庫.
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[ポライトネス]