#202 ナラティブの潮流
ナラティブについて、秦(2018)をもとに整理しておきます。もともとポジショニング理論について考えようとしていたところで出会った論文で、理論的背景として示されているナラティブ研究の潮流がとても分かりやすくまとめられていたため、ここに書き留めます。
秦(2018)は、イギリスに住む日本人女性を対象にインタビューを行い、イギリスのEU離脱という出来事を受けて、移民として自身のアイデンティティをどのように再構築していくのかを明らかにしようとした研究です。その分析の枠組みの一つとして「ナラティブ」が挙げられており、ナラティブがどのように捉え直されてきたのかが整理されています。
言語学におけるナラティブの構造モデルを確立したのは、Labov and Waletzky(1967)とされます。ここではナラティブの基準が設けられ、「要旨」から始まり、「導入」「展開」「評価」「解決」「終結」といった段階を踏んで語りが遂行されるという段階性が示されています。この見方では、ナラティブとは、出来事を何らかの価値体系を伴いながら再現する営みだと捉えられていました。
一方で、そのような一貫性をもつ語りは「big story」と呼ばれ、それ以外の語りを「small story」と呼んで区別する視点(Bamberg, 2004; Bamberg and Georgakopoulou, 2008)が提示されることで、従来の定義には入りにくかった語りも分析の対象になっていきます。これにより、ナラティブは過去の出来事の再現に限られなくなり、現在進行中の出来事や仮定の出来事も含めるようになりました。その結果、相互行為としての語りに注目し、語りの中で立ち上がるアイデンティティをより細やかに捉えることが可能になっていったといえます。
たとえば、相手との関係の中で自分をどう位置付けて語っているのか、語りの中で自分をどう価値づけているのか、社会の中で自分をどのように位置付けて見せたいのかといった点も、ナラティブの射程に入ってきます。
参考
秦かおり. (2018). EU 離脱騒動後にみるアイデンティティの再構築: 在英邦人女性が語る移民としての自己. 言語文化研究, 44, 107-125.
Bamberg, Michael (2004) Talk, small stories, and adolescent identities. Human development, 47, 331-353.
Bamberg, Michael and Alexandra Georgakopoulou (2008) Small stories as a new perspective in narrative and identity analysis. Text and Talk, 28(3), 377-396.
Labov, William and Joshua Waletzky (1967) Narrative analysis. In J. Helm (ed.), Essays on the verbal and visual arts, 12-44. Seattle, WA: University of Washington Press.
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[ナラティブ] [アイデンティティ]