#198 消費活動へと導くステップ
高木(2023)では、Fairclough(2015)が論じる「広告はイデオロギーを通して消費社会を作り出している」という議論を踏まえ、その分析手法を援用しながら、化粧品ブランドの広告を三つの観点から検討しています。
第一は「関係の構築」です。ここでは、製造者・広告主と読み手のあいだに、どのようなイデオロギー的関係が築かれているのかが問われます。分析の中心となるのは、テクストのスタイルや語彙です。たとえば、「私たちの生き方は、選択の連続だ。」といった普通体の語りから、「ベネフィークは、そんな戸惑いを肌から解決していくブランドです。」という丁寧体へと移行する。丁寧体の中で混用される普通体には、「話し手が物語の世界に入り、眼前描写する」機能があるとされている(メイナード 2005)。
第二は「イメージの構築」です。ブランドのイメージを確立するために、広告はどのようにして読み手の member’s resources ―すなわち社会的に共有された価値観や信念、表象―に働きかけているのかが検討されます。ここでは、どのようなフレームが喚起されているのかを、語彙を手がかりに分析しています。たとえば「私たちの生き方」「人生の変節点」「年齢とともに」「これから先はどうなるんだろう」といった語は、「女性の人生」というフレームを呼び起こします。そのなかでブランドは、揺らぐ人生に寄り添う「救世主」のような存在として描かれます。
第三は「消費者の構築」です。前の二つのプロセスを通して、読み手はどのように消費者の立場へと置かれていくのかが考察されます。つまり、広告のイデオロギーが「常識」として受け入れられ、自然な選択として消費へ導かれていく過程です。化粧品に頼ることで「美しくなれる」「快適になれる」「悩みを解決できる」「生活が充実する」といった物語が提示されるとき、読み手は化粧品に頼りたいと思い、消費活動に導かれていくと説明されています。
高木(2023)は最後に、ディスコースにおけるイデオロギーのパワーについて次のようにまとめています。
「ディスコースのイデオロギーによるパワー行使は、受け手にとっては当然のものとして承認される。強制されていることすら気づかないため負担が感じられないが、実は、受け手たちの価値観や行動に影響を及ぼすものとなる。」
参考
高木佐知子. (2023). 化粧品ブランド広告に見るディスコースのパワー―批判的談話研究の観点から―. 社会言語科学, 26(1), 133-140.
Fairclough, Norman (2015). Language and power. Third edition. N.Y.: Routledge.
メイナード, K. 泉子(2005). 日本語教育の現場で使える. 談話表現ハンドブック. くろしお出版.
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[広告] [批判的談話分析]