#197 ことばのパワー
広告のパワーについて考えたくて、化粧品ブランドの紹介Webページを分析している高木(2023)を読みました。研究の枠組みとして基盤に置かれているのは、批判的談話研究(Critical Discourse Studies, CDS)です。
CDSは、Norman Fairclough(1995, 2015)が述べるように、社会状況や社会組織といったコンテクストを参照しながらテクストを分析し、その背後にあるイデオロギーを明らかにしようとする立場です。言語現象を社会現象の一要素と捉え、単にテクストそのものを見るのではなく、言語体系の制約のもとでテクストがどのように産出され、どのように解釈されるのかというプロセスまで含めて「ディスコース」と考えます。そして、そのディスコースの実践は、常に社会状況や社会組織といった社会的コンテクストの制約を受けているとされます。
ここで言われる「ディスコースによるパワー」は、物理的な暴力や強制とは異なります。ディスコースの実践を通して伝えられるイデオロギーが、人々の同意や黙認を形づくることで行使されるパワーです。イデオロギーによって、ある種の「強制」は常識的なものとして解釈され、受け手はそれに気づかないまま当然のこととして受け入れてしまうことがあります。
広告というディスコースの実践は、その典型例だといえるでしょう。私たちが意識しないうちに、消費に対する価値観や自己理解のあり方に影響を与えています。
たとえば、資生堂のブランドであるBENEFIQUEの紹介文には、次のような一節があります。
「…年齢とともに、自分だけではどうにもならないこと 自分の思うようにならないことも知る。肌も毎日も。知らぬ間に肌と心にもやもやとくもりがたまってゆく。…ベネフィークは、そんな戸惑いを、肌から解決していくブランドです。…」
ここでは、人生には不安や戸惑いが生じるものであること、そしてそれが心だけでなく肌にも表れることが、あたかも当然の前提として提示されています。さらに、問題解決の出発点は「肌」であり、そこから悩みが解消されていくという構図が自然なものとして描かれています。
その背後には、肌の美しさが重要であるというイデオロギーや、女性は外見の美を求める存在であるとするジェンダー・イデオロギーが透けて見えます。それらは明示的に主張されているわけではありませんが、「そういうものだ」と受け入れられるかたちで語られることで、力を持ちます。
高木が分析に用いたFaircloughの枠組みについては、また改めて整理してみたいと思います。
参考
高木佐知子. (2023). 化粧品ブランド広告に見るディスコースのパワー―批判的談話研究の観点から―. 社会言語科学, 26(1), 133-140.
Fairclough, Norman (1995). Media discourse. London: Edward Arnold.
Fairclough, Norman (2015). Language and power. Third edition. N.Y.: Routledge.
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[ディスコース] [批判的談話分析(研究)] [広告]