#189 中国語話者の褒め
前回の出来事をきっかけに、中国語における「ほめ」行動について少し調べてみました。楊(2012)では、中国語話者が目上の人に対してどのように「ほめ」を用いるのかについて、大学生を対象としたアンケート調査が行われています。日本語話者としての一般的な感覚からすると、初対面の相手や目上の人は、どちらかといえば誉めにくい対象のようにも思えます。しかし、楊の調査では、相手が目上であっても、ほめ行動の使用率は85%と非常に高いことが示されています。
さらに、ほめのあり方は一様ではなく、相手との親疎関係や、利害・評価関係の有無によって変化することも明らかにされています。ここでも、「相手に積極的にかかわろうとするポジティブ・ポライトネスの重要なストラテジー」として、ほめ行動が位置づけられています。
先行研究の整理の中では、中国語はアメリカ英語と比べて褒め言葉のバリエーションが多いことや、人の外見や持ち物よりも、性格や内面的な側面をより重視する傾向があることなども指摘されています。
楊のアンケートでは、親疎関係の異なる4人の教師(どのくらいの頻度で会い、どのくらい気楽に言葉を交わせるかが異なる)を想定し、さらに「授業」「持ち物」「外見」「能力」という4つの場面ごとに、「その場面で気持ちを伝えたい場合、どのように言うか」を自由記述で回答してもらっています。
また、ほめ方のタイプも、「先生に関する言及(例:先生、とても素敵です)」「自分に関する言及(例:先生、あなたの授業からたくさん学びました)」「第三者に関する言及(例:あなたの授業がよかったと皆が言っています)」といったように分類されています。
その結果、どのタイプの教師に対しても、先生本人に直接評価を与える、あるいは事実を客観的に述べるようなほめ方の頻度が高いことが示されました。親しい相手のほうがほめの対象になりやすい一方で、利害関係の有無はそれほど強い影響を及ぼさず、むしろ親しくない場合において、利害関係が一定の影響力を持つことも明らかになっています。また、「外見」よりも「専門・授業」「持ち物」「能力」といった項目のほうが、ほめ表現として多く用いられていたそうです。
先日の「声がきれいだ」という一言も、単なる偶然ではなく、中国語におけるほめの文化やポライトネスの実践の一端として位置づけられるのかもしれません。
私が言われた「声がきれい」は、親しくない関係であり、しかも一定の利害関係がある状況、さらに電話越しという限定されたコミュニケーション環境での褒めでした。それはいったいどのタイプに該当するのだろうか、と改めて思いを巡らせています。
参考
楊一林 (2012). 中国人話者の目上への 「ほめ」 行動について: 中国人大学生を調査対象として. 金沢大学経済学類社会言語学演習『論文集』第7巻 39-52.
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