#188 真面目な話の中で
先日、中国からの留学生の保護者にご連絡する機会がありました。私は中国語がまったくできないため、中国語の先生に通訳をお願いしての国際電話でした。
内容は、出欠状況があまり良くないことや、本人の体調がすぐれないこと、さらにはビザの申請にも関わるかもしれないという、ややネガティブなものでした。遠く離れた場所から心配しておられるご両親に、誤解のないよう正確に状況を伝えなければと思い、事実を淡々と、できるだけはっきりとお話しし、それを通訳していただいていました。
すると突然、通訳をしてくださっていた先生がくすっと笑われました。何だろうと思っていると、「『先生の声がきれいだ』と言っています」とのこと(笑)。緊張感のあるやりとりの最中だっただけに、その一言で場の空気がふっと和らぎました。日本の職員室のような場所で電話対応をしていたので、その場にいた事務の方々も思わず笑ってしまっていました。
後から振り返ってみると、この褒めは、まさにポライトネス、つまり対人的な配慮行動の一つだったのではないかと感じます。また、「声がきれいだ」という褒め方は、日本語ではあまり耳にしないタイプのもので、中国特有の文化的な慣習があるのかもしれないとも思いました。
井上(2021)では、「褒め」はつながり(連帯、ポジティブ・ポライトネス)の代表例として挙げられています。「褒められるということは、その人に認められるということで、基本的に『つながり』志向である。また、多くの文化で、社交辞令的に褒めるということもあるだろう。あまり好きでないものでも沈黙せずに、Good. や Fine. などと言ったりもする。」と述べられています。
あの電話の一言も、シリアスな状況の中で関係をやわらげようとする、つながり志向の表れだったのかもしれません。中国における「褒め」行動について、少し調べてみたことを、次の記事でまとめてみたいと思います。
参考
井上逸兵 (2021) 『英語の思考法―話すための文法・文化レッスン』ちくま新書
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[ポライトネス]