#187 翻訳からみる文化の違い
引っ越しの準備をしています。リフォーム以外での本格的な引っ越しは初めてなので、バタバタし、肩と腰がやられまくっています。
引っ越しと言語学……と考えていた中で、井上(2017)のトトロの例を思い出しました。そこでは、映画の字幕・吹き替え翻訳を対象に、当該言語の文化のコミュニケーションの原理に根差していることが多い慣習表現に注目しています。
たとえば、日本語の「よろしくお願いします」というフレーズは、英語の対等の原理(egalitarianism)とは異なり、自己卑下的な謙遜の原理(self-depreciation)に基づく、日本語独特の敬意の表し方であることが紹介されています。実際の映画ではどのように字幕翻訳されているのかを見ると、状況的等価を目指そうとする例(1)や、オリジナルの意味をなるべく反映させる(異質翻訳)の例(2)が見られるといいます。
(1)「引っ越してきましたー。よろしくお願いしまーす。」
"Looks like we're going to be neighbors! Pleasure to meet you!"(『となりのトトロ』より)
(2)「ともかく新人ですのでよろしくお願いします。」
"I'm a new comer here, and I look forward to your cooperation."(『ウォーターボーイズ』より)
そして、上の(1)の例では、引っ越しに関わる習慣の違いも反映されているとされています。日本では引っ越してきた人が挨拶をするのに対し、アメリカではもともと住んでいた側が新しく来た人に声をかけることが多い。そのため、日本のやり方をそのまま英語にすると不自然になってしまう。けれども口の動きに合わせてセリフは必要なので、「多分ご近所になりますね」といったやや曖昧な形で翻訳されている、とのことです。
引っ越しといえば、引っ越しそばを連想します。江戸時代から、新居に越してきた際に近所の人に挨拶する意味でそばを配る習慣があったそうですが、今ではその意味も薄れ、新居で(手伝ってくれた友人などと)食べるもの、という意味に変化しているとか。これは知らなくて驚きました。
さらに、SUUMOのアンケートでは、現在、引っ越しの挨拶を「している」のは48%だそうです。これまた驚きました。
参考
井上逸兵 (編). (2017). 『朝倉日英対照言語学シリーズ 発展編1 社会言語学』. 東京: 朝倉書店. 第6章 井上逸兵「字幕・吹替訳ディスコースの社会言語学」pp. 107–122.
https://www.ukiya.co.jp/column/014-2/#:~:text=%E5%BC%95%E8%B6%8A%E3%81%97%E3%81%9D%E3%81%B0%E3%81%AE%E6%9C%AC%E6%9D%A5%E3%81%AE,%E6%B0%97%E6%8C%81%E3%81%A1%E3%82%92%E8%BE%BC%E3%82%81%E3%82%8B%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82