#183 前提の特性
前回取り上げた「前提」には、もう一つ重要な特性があります。それは、文が否定されても、前提そのものは残り続けるという性質です。
たとえば、「私の兄は34歳です」という文を考えてみます。この文を「私の兄は34歳ではありません」と否定しても、「私に兄がいる」という前提自体は変わりません。年齢については否定されても、兄の存在はそのまま保たれます。
一方で、少し複雑な例もあります。「祖父は、干し柿のビジネスを始める前に酪農をしていた(My grandfather used to run a dairy farm before he started a dried persimmon business.)」と言われると、「祖父が干し柿のビジネスを始めた」という前提は自然に受け入れられます。しかし、「祖父は、干し柿のビジネスを始める前に亡くなった(My grandfather passed away before he started a dried persimmon business.)」となると事情は変わってきます。亡くなってからは何かを始めることはできない、という私たちの現実世界の知識に基づいて、同じ「始める前に」という表現が使われていても、前提は成立しなくなり、結果として祖父は干し柿のビジネスを始めていないことになります。
このように、前提は常に機械的に維持されるわけではなく、文脈や私たちの常識的な知識によって、成立しなくなる場合もあります。こうした前提の特性について、否定されても前提が保たれる性質は constancy under negation、そして文脈によって前提が取り消されうる性質は defeasibility や cancellability として紹介されています。
参考
https://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2018-08-21-1.html
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