#179 隠喩によるフレーミング
フレーミングについて、小松原・朴・南(2024)の論文を読んでいます。第3節では、フレーミングの定義として、Entman(1993)が挙げられています。そこではフレーミングとは、「現実認識のいくつかの側面を選択し、コミュニケーションのなかでその側面に際立ちを与えることで、ある問題を定義し、因果関係の解釈、倫理道徳的な評価、解決方策の方針を誘引すること」と説明されています。
そして、このフレーミングを支える修辞的装置のひとつとして、隠喩が挙げられている点が興味深いと感じました。たとえば、Semino, Demjén, and Demmen(2018)では、重病患者が病気の経験を「戦い」としてフレーミングする例が紹介されています。病気を戦争の概念メタファーで捉えることで、治療や延命は「勝利」とされ、回復しないことや死は「敗北」と理解されます。また、危険や困難に立ち向かう勇気が必要なものとして病気の経験が語られるようになります。このように、フレーミングによって、病気の経験の理解や伝達が促進されていることが示されています。
さらに、こうした隠喩の使用は、伝達する主体だけでなく、それを受け取る側の情動にも影響を与えるとされており、Hendrick et al.(2018)の研究も取り上げられています。この点も非常に興味深いと感じました。病気を「戦い(battle, fight, battlefield)」としてフレーミングする場合と、「旅(journey, road, path)」としてフレーミングする場合とで、読み手の情動反応にどのような違いが生じるのかを検証したところ、旅のフレーミングよりも戦いのフレーミングの方が、患者が回復しなかった場合に「罪悪感を覚えるだろう」と推論する傾向が強くなることが明らかになったそうです。
論文では、「異なる隠喩が、たとえ同じ人の同じ病気の経験を表すものであっても、その経験の解釈に影響を与えることを示しており、隠喩による異なる意味づけが、コミュニケーションの相手の情動的評価を変化させる機能をもつ」と述べられています。フレーミングという視点から見ると、私たちが何気なく選んでいる表現が、相手の理解だけでなく、感情のあり方にも深く関わっていることを、あらためて実感させられます。
参考
小松原哲太, 朴秀娟, & 南佑亮. (2024). ことばの創造性: 主観性・対話性・多様性からのアプローチ. 国際文化学研究: 神戸大学大学院国際文化学研究科紀要, 61, 1-33.
Entman, Robert M. (1993) Framing: Towards clarification of a fractured paradigm. Journal of Communication 43(4): 51–58.
Hendricks, Rose K, Zsófia Demjén, Elena Semino, and Lera Boroditsky (2018) Emotional implications of metaphor: Consequences of metaphor framing for mindset about cancer. Metaphor and Symbol 33(4): 267–279.
Semino, Elena, Zsófia Demjén, and Jane Demmen (2018) An integrated approach to metaphor and framing in cognition, discourse, and practice, with an application to metaphors for cancer. Applied Linguistics 39(5): 625–645.
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[メタファー][概念メタファー][フレーミング]