#178 コックニーについて
田中(2005)をもとに、コックニーの特徴について、特に興味深いと感じた点を整理しておきます。
19世紀初頭のイギリスでは、人々の移動が少なく、「地域英語」の種類が非常に多かったとされています。しかし、産業革命が始まると、田園地帯にいた農業労働者が工業都市へと移り住むようになり、地域英語が標準英語へと向かう動きが見られるようになります。18世紀には英語の辞書が出版され、書き言葉の標準化も進展しました。さらに、1870年の教育条例によって初等教育が一般に行き届くようになり、標準英語化はいっそう進むことになります。
こうした流れの中で、地域英語は、教育を十分に受けられない下層階級、すなわち貧困層の言葉として位置づけられる一方、知的職業に携わる人々や地主などの中流階級、あるいは上流階級であれば標準英語を用いるという社会的構図が形成されていったようです。
コックニーという呼称は、中英語の cockeney(cock’s egg 雄鶏の生んだ形の悪い卵)に由来し、「めめしい愚かな人」を意味する否定的な語であったとされています。もともとはロンドン市中で共通に用いられていた地域英語でしたが、19世紀末頃からは下層階級の労働者の地域英語として定着し、粗野で無教養な印として侮辱の対象となっていったとされています。
一方で、現代の言語学では、標準英語もコックニーも、それぞれ英語の変種の一つとして捉えられ、体系的な調査が試みられています。音声的な特徴としては、以下の図に示されているような点が挙げられています。
人々の移動や教育のシステム、辞書の登場といった歴史的背景と結びついて、言語変種が位置づけられてきたことを、改めて面白いと感じます。
参考
田中美和子, & タナカミワコ. (2005). 音声学資料としての映画-『マイ・フェア・レディ』(1964) に見るコックニー方言. 国際研究論叢: 大阪国際大学紀要, 19(1), 39-53.
中尾俊夫、寺島廸子(2002)(1988)『図説英語史入門』大修館書店
p.45