#175 話し言葉の埋め草
学生が原稿をそのまま読み上げると、たとえ簡単なことばが使われていたとしても、その不自然さから、一瞬では理解できないことがあります。書き言葉(もちろんジャンルにもよりますが)には、会話の内容と直接関係のない要素は含められず、時間をかけて表現することができますし、不要な情報はあらかじめ削ってから書くのがマナーとされています。
一方、石黒(2023)では、人が言葉を話すときの状況について、すべての情報が整ってから話し始めるわけではないことが指摘されています。私たちは話しながら情報を呼び出しており、話しかけてから情報が足りないことに気づくこともあります。こうした存在を認め、具体的な意味を持たない音を話の途中に挟んで間を持たせるものを「フィラー」と呼びます。
たとえば、情報Xそのものを探しているときには「えーと」が使われますし、情報Xの言い方を探しているときには「あのー」が使われます。また、情報を無理に埋めようとせず、不十分でも思いついた範囲で言う「まあ」や、わからないところはわからないまま話し続ける「なんか」なども取り上げられています。
石黒は、こうしたフィラーについて、決して邪魔なものではなく、むしろフィラーのない話のほうがかえって聞き取りにくいと述べています。フィラーは、話し手が今、何を考え、何を言おうとしているのかを間接的に教えてくれるマーカーとして働いており、聞き手はそのマーカーの助けを得て話の内容を理解している、というのです。
私自身の頻出フィラーは「なんか」ですが、多すぎると、自分の曖昧さのようなものが伝わってしまう気がして、意識的に使用を封じたことがあります。ただ、こうしたフィラーがない話もまた聞き取りにくいと知ると、完全に消そうとするのではなく、自分の理解の段階に応じて、相手のためにも適切なフィラーを使っていきたいと思うようになりました。
参考
石黒 圭(2023)『コミュ力は「副詞」で決まる』光文社新書(1253)
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