#158 制度の中のスモールトーク
前回に引き続き、Coupland(2019)のスモールトークについての話です。今回紹介されているのは、医者と患者のやりとりの一例です。
このやりとりの本来の目的は、もちろん患者の症状について話すことにあります。ただ、いきなり核心に入るわけではありません。やりとりは、医者の “morning” に対して患者の妻が “good morning” と返し、さらに “you enjoy your holidays?” と続くような、ごく日常的な会話から始まります。そうしたやりとりを経て、ようやくデータの20行目で “what’s the problem?” と、本題に入っていくのです。この20行目に至るまでのやりとりについては、次のように説明されています。
“…characteristically of the opening phases of a range of similar activity types, participants’ initial talk is at least apparently oriented to relational goals, framed through small talk/phatic communion, serving to establish or re-establish a social consensus for talk.”
つまり、多くの場面に共通して、会話の冒頭では、表向きには関係づくりを目的としたやりとりが行われ、スモールトークや交話的な会話を通して、「これから話すための共通の土台」を整えている、というわけです。
また、医者と患者のような制度的な文脈では、一見するとスモールトークに見えるやりとりが、実際には重要なタスク関連の目的を果たしていることがあると指摘されています。たとえば、看護師が不快な医療処置の最中に “Is it still sunny outside?” と声をかけるのは、単なる雑談ではなく、患者の注意をそらし、処置を円滑に進めるための働きを担っています。
このような場合に重要なのは、話題そのものではなく、会話を通して生み出される人と人とのつながりそのものだということも以下のように述べられていました。
In this case, what matters is not what talk is about but the sheer humanising force of communion achieved through talk.
参考
Coupland, J. (2009). Social functions of small talk and gossip. In N. Coupland & A. Jaworski (Eds.), The New Sociolinguistics Reader (pp. 646-61). London: Palgrave Macmillan. Palgrave Macmillan.
keywords
[スモールトーク] [制度的談話]