#155 Journal of Pragmaticsの最新号(2)
前回の続きです。Journal of Pragmatics 最新号の後半に掲載されている論文の中から、残りの3本を見ていきます。
4本目は、Restricting impoliteness: (Re)asserting morality in third-party mediation of Chinese interpersonal conflict(Xiaoming Shang, Linlin Zhan & Chaoqun Xie, pp. 47–64)
中国のテレビ調停番組をデータとして、第三者による介入の場面で、「道徳」という枠組みがどのように対人間のコンフリクトにおける非礼(impoliteness)を抑制しているのかを分析した研究です。特徴的なのは、視聴者という「不在のオーディエンス(absent audience)」の存在です。このオーディエンスが、道徳的な監督者であると同時に、道徳教育の受け手(recipients of moral education)として想定されることで、当事者たちが impoliteness に踏み込むことを思いとどまらせている、という点が示されています。
5本目は、Correction in embodied interaction: How teachers and children reflexively manage a preschool mobile formation in traffic(Mathias Broth, Annerose Willemsen & Jakob Cromdal, pp. 65–82)
保育園児の集団歩行という場面を対象に、身体動作を含む「修正(correction)」が、どのように相互行為として組織されているのかを分析した研究です。教師がどのように修正を開始し、それに対して子どもたちがどのように身体的に応答するのかが丁寧に追われています。言語的な修正によって、「期待されている歩き方」から逸脱していることが示されると、子どもたちは、教師の言葉による修正の開始とほぼ同時の身体化された修正を通して、何が問題で、どう修正すべきかを理解していく様子が描かれます。修正のシークエンスがリアルタイムに共同生産される点が強調されています。
6本目は、Refutation in presidential debate: Metadiscourse and co-occurring gestures(Chung-Chen Chen & Yen-Liang (Eric) Lin, pp. 83–99)
2024年の米大統領討論会を対象に、反駁(refutation)がどのように構築されているのかを、選択体系機能言語学(SFL)とマルチモーダル・ディスコース分析の枠組みから検討した論文です。反駁は、相手に挑みつつ自らの信頼性を強化する重要な戦略であるにもかかわらず、言語とジェスチャーを統合的に扱った研究はこれまで多くなかった、という問題意識が示されています。Donald Trump と Kamala Harris を比較すると、Trump は接続表現(text connectives)や 発話行為を示すマーカー(illocution markers )といったメタ談話標識を全体的に多用し、一方 Harris は 比喩的ジェスチャー(metaphoric gestures) を比較的頻繁に用いていることが示されます。いずれの場合も、発話と身振りが切り離されたものではなく、説得性を共同で構築するマルチモーダルな資源として機能していることが確認されています。
参考
Journal of Pragmatics (2026) Volume 251 Pages 1-100
keywords
[インポライトネス] [マルチモーダル] [発話行為]