#154 Journal of Pragmaticsの最新号(1)
比較的よく目を通している Journal of Pragmatics の最新号について、今回は「今、どんな研究が取り上げられているのか」をざっと眺めてみようと思います。以前、とある先生から「最新号を見て、学会誌が今何に関心を向けているのかを意識するように」と言われたことがあるのを思い出しての試みです。
今回はその中でも、前半に掲載されている3本を、タイトルと要約から分かる範囲でご紹介します。
まず1本目は、“You wanna flirt?” – “Let's flirt”: A corpus-based analysis of flirting(Lena Scharrer & Michelle Weckermann, pp. 1–13)
米国の恋愛リアリティ番組 Love is Blind をコーパスとして、flirting(日本語で言えば、口説く、相手の気を引く、といった行為)を言語行為として分析した論文です。これまで flirting は、言語学的にはほとんど分析されてこなかったという問題意識を出発点にしています。特徴的なのは、flirting の本質として「遊びを伴う逸脱(playful transgression)」を挙げている点です。分析の結果、出演者たちは、性的なほのめかし(sexual innuendo)、自己称賛(self-praise)、想像上の未来(imagined future)など、6つの “vehicles” を使って関心や好意をシグナルしていることが示されます。性別によって使われる頻度には差があるものの、どちらの性別もこの6つすべてを用いている、という点が主張されています。
2本目は、The affective meanings of bowing in a web corpus of Japanese(Eugenia Diegoli, pp. 14–29)
日本語ウェブコーパスにおける「お辞儀」への言及を、Affective Pragmatics 理論(Theory of Affective Pragmatics; TAP)の枠組みから分析した研究です。お辞儀が、謝罪・感謝・依頼・挨拶といった複数の発話行為と重なり合って語られていること、また、そこから後悔・恥・感謝といった特定の感情が推論されることが示されています。
3本目は、The generic use of the 1st-person singular ich ‘I’ in German oncological consultations(Dominic Hendricks, pp. 30–46)
ドイツ語の医療面談における、一人称単数 ich の総称的用法を、会話分析の観点から検討した論文です。医師が、もともとの治療提案(original treatment recommendation)を説明しながらトラブルを振り返る場合(retrospectively)、あるいは、患者に起こりうるトラブルを先回りして回避しようとする場合(prospectively)に、この用法が用いられることが示されています。generic と deictic の境界は曖昧ではあるものの、man(「一般に〜する人」)よりも話者の主観性を残す点に、この ich の特徴があると指摘されています。
次回も残りの2本を紹介します。
参考
Journal of Pragmatics (2026) Volume 251 Pages 1-100
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[発話行為] [語用論]