#25 森を見る
2回目の動画では、博士論文で取り組んだ量的分析について紹介しました。企業のメッセージを客観的に分析するために、私は集めたデータに対してトピックモデリング分析、感情分析、リーダビリティ分析を行いました。今日はその中から「感情分析」についてご紹介したいと思います。
感情分析(sentiment analysis)とは、テキストに含まれる感情的な傾向(ポジティブ/ネガティブ/ニュートラル)を自然言語処理の手法で数値化・分類するものです。SNSやレビュー投稿など膨大なテキストから世論や消費者の気持ちを把握するために使われます(Abiola et al., 2023)。私が使ったのは、Pythonのライブラリである VADER(Valence Aware Dictionary and sEntiment Reasoner)と TextBlob です。
VADERはソーシャルメディア向けに最適化された辞書ベースの手法で、positive, negative, neutral, compound の4種類のスコアを算出します。TwitterやFacebookなど短文データに強いのが特徴です。TextBlobは文ごとに polarity(−1~+1で感情の強さ)と subjectivity(0=客観的、1=主観的)を返し、文章の配置や意味から全体の傾向を計算してくれます。
分析対象は、1998年・2005年・2021年の企業の年次報告書に掲載された「企業概要」です。全体の傾向としては、どの年も総合スコアはポジティブ寄りでした。その中で注目すべきは変化の方向性で、ポジティブな感情は1998年の15.6%から2021年には23.2%へ増加し、その代わりニュートラルは83.3%から76.2%へ減少しました。ネガティブな感情はごくわずかで、一貫して低下しています。つまり、企業概要は時代とともに中立的な事実提示からより楽観的で前向きなメッセージへと移行していることがわかります。
具体例を見てみると、1998年のAllstateでは
“The company serves more than 14 million households through some 15,500 agents and 780 life specialists in the U.S. and Canada.”
という完全に中立的と判定された文があります(結果:neg=0, neu=1, pos=0, compound=0)。
一方で2021年のCoca-Colaでは
“LOVED BRANDS, DONE SUSTAINABLY, FOR A BETTER SHARED FUTURE.”
といった、loved や better などの語から強いポジティブ感情が表れており(結果:‘neg’: 0, ‘neu’: 0.309, ‘pos’: 0.691, ‘compound’: 0.8807)、企業の姿勢がより前向きに表現されていることが読み取れます。
Abiola et al. (2023) の研究では、COVID-19関連のツイートを収集して感情分析を行い、全体としてポジティブ寄りの結果が得られていました。ポジティブ・ネガティブの傾向を知ることで、政府や組織が世間の反応や課題を把握したり、誤情報の問題に対処する手がかりにもなると評価されています。
量的分析に対して、質的分析があります。佐藤(2008)は「質的データと量的データは本質的に同列には扱えない(p.15)」と述べています。実際、数値では捉えきれない人々の語りや発話の「意味」が質的データには含まれています。
「木を見て森を見る、森を見て木を見る(p.72)」。この言葉が示すように、数値で全体像を把握しつつ、具体的な事例に含まれるニュアンスを見失わないことが大切です。そう考えると、量的分析で得られたパターンを手がかりに質的分析へつなげていく方法は、とても有効だといえます。両方を往復しながら言語を分析することが、より豊かな理解につながるのだと思います。
参考
Abiola, O., Abayomi-Alli, A., Tale, O. A., Misra, S., & Abayomi-Alli, O. (2023). Sentiment analysis of COVID-19 tweets from selected hashtags in Nigeria using VADER and TextBlob analyser. Journal of Electrical Systems and Information Technology, 10(1), 5. https://doi.org/10.1186/s43067-023-00070-9
佐藤郁哉. (2008). 質的データ分析法―原理・方法・実践. 新曜社.
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[感情分析] [量的分析] [質的分析]