#50 コメント読みに必要なこと
最近、「アフォーダンス(affordance)」という概念について、Journal of Pragmatics 掲載論文を中心に読み進めています。今日は、印象に残った論文から、研究の射程や発展可能性、そして身近な事例とのつながりをごく簡単にまとめます。
まずアフォーダンスとは何か。Gill(2017)のまとめによれば、これは技術を媒介した相互行為(technologically mediated interaction)のダイナミクスを理解するうえで中核となる概念で、人と機械の インターフェース(interface) を捉えるのに有用です。つまり、テクノロジーがもつ可能化と制約("the enablements and constraints... of technologies")、そして特定の行為が成立しうる条件をかたちづくる("shape the conditions of possibility associated with an action")といった側面を指します(Hutchby, 2014, pp. 86–87)。
Meredith(2017)は、デジタル・コミュニケーションを対象とする会話分析(Conversation Analysis, CA)において、Facebookチャットの事例から、アフォーダンスに目を配る必要性を説きます。具体的には、①メッセージ作成欄、②相手の入力中を示すアイコン、③送信後もテキストが画面に残ること、④オンライン状態を示す緑の表示といったアフォーダンスが、ターン交替や修復、発話の形式に影響することを丁寧に示しています。
また、Ruytenbeek et al.(2021)は、O’Riordan et al.(2011)を踏まえ、アフォーダンスを 社会的機能アフォーダンス("social functional affordances")(ユーザー情報や他者とのやりとりに関わるもの)と、内容機能アフォーダンス("content functional affordances")(コンテンツの作成・抽出に関わるもの)に分け、多くの研究が前者に偏ってきたと指摘しつつ、後者に焦点を当てています。彼らはBooking.comとTripAdvisorのネガティブレビューを比較し、入力欄の構造や誘導メッセージが否定的表現のしかたに与える影響を分析しました。
たとえば、TripAdvisor では "Title of your review" と "your review" の2つの空欄のみ(上限は 20,000 characters)に対し、Booking.com では文字数制限こそないものの、"What did you like?"、"What did you not like?"、"Summarize your trip in a short sentence" といった区分された入力欄が提示されます。結果として、内部構造の違いによって、TripAdvisor の方がナラティブ的で詳細かつ明示的な否定が多く、Booking.comでは否定のトーンが弱まり、否定的な絵文字などで表現される傾向が見られました。
私は Booking.com の最上位会員であるGenius レベル3(Genius Level 3)で、「コメント読み(笑)」としての自負があります。ありがたいことに、これまで宿選びで大きな不満を抱いたことはありません。(知人のなかには、ダブルブッキングで泊まれなかったとか、「朝食付き」と書いてあったのに実際は「自炊できる」という意味だった……といった失敗談もありますが。)
Booking.com で宿を探すときは、必ずGoogle マップ(Google Maps)のレビューもあわせて確認します。さらに必要があれば他のサイトもチェックします。たとえば食べログでは、レビューの本文だけでなく、そのレビュワーがこれまでどのくらい投稿してきたか、といった情報も参考にします。
この「一つのサイトに頼らず複数のサイトを見比べる」という行動は、これまで自分では無意識にしてきたことですが、振り返ってみると対応策として十分に機能していたのだと思います。というのも、今回紹介した分析結果からもわかるように、それぞれのサイトのアフォーダンスは、レビューの書き方やその否定的な態度の強さを変えてしまう可能性があり、結果として、読む人が得る情報や受ける印象にも影響を与えてしまうからです。
参考
Ruytenbeek, N., Verschraegen, M., & Decock, S. (2021). Exploring the impact of platforms' affordances on the expression of negativity in online hotel reviews. Journal of Pragmatics, 186, 289–307.
Gill, M. (2017). Adaptability and affordances in new media: Literate technologies, communicative techniques. Journal of Pragmatics, 116, 104–108.
O'Riordan, S., Feller, J., & Nagle, T. (2011). The impact of social network sites on the consumption of cultural goods. In Proceedings of the European Conference on Information Systems (ECIS), Helsinki, Finland.
Meredith, J. (2017). Analysing technological affordances of online interactions using conversation analysis. Journal of Pragmatics, 115, 42–55.
Hutchby, I. (2014). Communicative affordances and participation frameworks in mediated interaction. Journal of Pragmatics, 72, 86–89.
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[アフォーダンス] [会話分析] [メディアの違い]