#49 応答への期待
昨日の記事では、英語と日本語における「様態の示し方」、つまり「どのように歩くのか」「どんな痛みなのか」といった表現の仕方に違いがあることに触れました。日本語はオノマトペなどの付加詞を多く使うのに対し、英語では動詞そのものに様態が含まれることが多い、という話でした。
これは言語の類型的な違いではありますが、単なる言語の特徴にとどまらず、背後にあるコミュニケーションのあり方も知っておく必要があります。この点はこれまでもポライトネスと関連づけて紹介してきましたが、人の「つながり(positive)」志向と「独立(negative)」志向が、言語文化や状況によってどちらが優先されるかが異なる、という話題です。
井上(2021)では、ファミレスやスーパーでの店員と客のやりとりを例に、英語が「つながり」志向的であることを指摘しています。英米や欧米の多くの文化では、店員が初めての客にも Hi! と挨拶し、How are you? と声をかけるのが礼儀であり、客も Hi! や Good! How’re you? と返すのが自然です。
一方、日本語では店員の「いらっしゃいませ」に返答の定型句はなく、やりとり自体が少ないのが特徴です。お客様に過度に「つながり」を持つことは、出過ぎた行為であり無礼とされる場合があるとも指摘されています。実際、たくさん話しかけられると委縮してしまったり、イヤホンをして話しかけられないようにしている人もいるという声を聞いたことがあります。
ただし、日本語の接客スタイルも地域や業種、顧客層によって変わりつつあるように思います。以前より声をかける店員が増えている気もしますし、今後「いらっしゃいませ」に代わる言葉や、英語のような挨拶、あるいは全く新しいフレーズが出てくるのかもしれません。その動向を見守りたいと思います。
参考
井上逸兵(2021)『英語の思考法 ――話すための文法・文化レッスン』ちくま新書
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