#41 ソーシャルメディアと実世界の境界線
ただいま、Instagramのハッシュタグ、とくに #ファッション / #fashion がどのようなハッシュタグと共起するのか、日本語と英語を対照的に見ているところです。ここで注意しなければならないのは、日本語の投稿は多くが日本語話者(日本人)によるものですが、英語の投稿は必ずしも英語話者とは限らない、という点です。したがって、ここで見えてくる違いは、単純に日本語と英語の違いと捉えることはできない点に注意が必要です。
今回考えたいのは、投稿者がソーシャルメディアをどのようなものとして捉えているのか、ということです。データを見ている中で、「ソーシャルメディアの世界」と「実世界」の関わりをどう捉えるかに、英語と日本語で差があるように思えます。
たとえば、日本語のファッション関連投稿には、#休日コーデ、#デートコーデ、#ママコーデ、#40代コーデ、#高身長女子 などがよく見られます。そこでは「ソーシャルメディアの世界」と「実世界」の境界線は曖昧で、ファッションは生活の延長として語られている傾向が見られます。
一方、英語の投稿は日本語のように休日やデートといった広いシチュエーションを示すよりも、時間的には当日中心で、#ootd (outfit of the day) や #postoftheday といった即時的なタグが目立ちます。また、#styleinspo (style inspiration) のように相手にお手本を示すタグや、#explore, #fyp (for your page), #viral といった拡散を意識したネット用語も多く、日本語投稿と比べて顕著です。こうした点から、「実世界」とはやや切り離された「ソーシャルメディアの世界」で語られている印象を受けます。
現在は数値的にも検討を進めており、おそらくこの傾向は統計的にも確認できると思いますが、この違いを考える中で「有界性」と「無界性」の概念を思い出しました。
多々良他(2012)は、「言語構造や言語使用、さらには文化的構築物といった様々な現象において、同様の傾向がみられるという『相同性』」の一つとして、有界性と無界性の概念を取り上げています。
「人間が外界の対象を認知するときに、その対象が明確な輪郭をもって現れると、その対象には有界性(bounded)の特徴があり、明確な境界がない連続体として立ち現れる時には、その対象は無界性(unbounded)という特徴を持って考えることができる。」
さらに多々良他(2012)は、「英語と日本語を比較してみると、両言語で有界性と無界性に関する特徴が異なる」、そして「名詞や動詞などの語彙レベルに限ったことではなく、両言語のさまざまなレベルにおいても観察されるものである」と述べています。
たとえば、日本語の「逃げる」は行為そのものに焦点を当てた過程志向的な表現ですが、英語の escape は結果を含意しており結果志向的な表現となります。証拠として、日本語では「ジョンは逃げたけど、すぐに捕まった」と言えますが、直訳して John escaped, but soon got arrested とすると英語の方は不自然になります。escape には明確な終了点が含意されており有界的である一方、「逃げる」は終了点が曖昧で無界的な特徴を持っていると言えるのです。
明日も、多々良他(2012)をもとにさまざまなレベルにおける有界性と無界性の例を紹介しようと思いますが、先に触れた「ソーシャルメディアの世界」と「実世界」の境界線についても同じように考えられるのではないかと思います。英語の投稿は即時的でSNS特有の言葉回しなど実世界と異なる有界的な特徴を持つのに対し、日本語の投稿は実生活と地続きで、半永続的な無界的特徴を帯びているように思います。
参考
多々良直弘・谷みゆき・八木橋宏勇 (2012) 『英語と日本語に現れる言語と文化の相同性』桜美林論考 言語文化研究, 3, 61–80.
keywords
[相同性] [有界性] [無界性]