#36 巨大なDレックス
まさに今NHKスペシャル「恐竜超世界3」を視聴していて、『ジュラシック・ワールド/復活の大地』に登場した新恐竜(といっても人間が作り出したもの)「ディストータス・レックス」を思い出しました。通称Dレックス。名前は「歪める」を意味する distort から付けられたそうで、とにかく大きく、恐竜というよりもモンスターに近いフォルムです。シリーズをずっと観てきた私も、思わず「これはもう恐竜じゃない」と感じましたが、なぜそのような巨大生物が登場するのかという物語の仕掛けや、ハラハラする展開はやはり楽しめました。
一方で、Tレックスことティラノサウルスも、ジュラシック・パークの時代には最強で絶大な人気を誇っていました。ティラノサウルス・レックスという学名は、ギリシャ語の tyrannos(暴君の)+ sauros(トカゲ)、そしてラテン語の rex(王)から成り立っているそうです(福井県立恐竜博物館より)。まさに「恐竜の王」と呼ぶにふさわしい名前です。
そんなTレックスを超える存在として描かれたDレックス。その迫力は、名前に含まれる「濁音」にも表れているように思います。野村(2014)が紹介する「音象徴(sound symbolism)」、つまり形態素よりも小さな音の単位が象徴的な意味を持つ現象を思い出しました。例えば田守(1999)は「ころっ・ころり・ころん・ころころ」といった語形の違いを示し、促音「っ」がスピード感や瞬時性を、語尾の「り」がゆったり感や一区切りを、撥音「ん」が共鳴感を、そして反復形が連続性を表すことを指摘しています。
さらに川原(2023)の研究では、ポケモンの名前が進化するほど濁音が増える=「大きさ・進化度」と結びつく傾向があることが示されています。これは日本語だけでなく英語・ポルトガル語・ロシア語など多くの言語でも確認されているとのこと。濁音が大きさを感じさせる一因として、「発音の際に口の中が膨らむ」という身体的な要因が指摘されています。
言語学では、言葉の形と意味の結びつきは本来「恣意的(arbitrary)」で、必然的な関係はないとされてきました。たしかに、濁音だからといって常に大きさや迫力を表すわけではありません。しかし一方で、濁音にインパクトや大きさを感じるような例に出会うと、そこに偶然ではない必然性を感じることがあります。野村が述べるように、形と意味のあいだに自然なつながりが見いだされるとき、その記号は「動機づけられている(motivated)」と言えます。
たしかにDレックスはその名の通り、とてつもなく大きくてインパクトがあります。そこには偶然ではなく、ある種の動機づけが感じられます。
参考
野村益寛(2014)『ファンダメンタル認知言語学』ひつじ書房
川原繁人(2023)『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える』ディスカヴァー・トゥエンティワン
田守育啓・ローレンス・スコウラップ(1999)『オノマトペ: 形態と意味』(日英語対照研究シリーズ 6)くろしお出版
福井県立恐竜博物館「ティラノサウルスの学名の意味」https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/dino/faq/r02007.html
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[音象徴] [動機付け] [恣意性]