#35 ひろく言行一致
昨日、NHKの新プロジェクトX「渋谷駅 100年に1度の大工事~鉄道3社 日常を守り抜け~」を視聴し、胸を熱くし涙しました。
東急・JR・東京メトロという三社の利害が絡む中で、人々にとって駅はどうあるべきかを突き詰め、理想をすり合わせながら長期にわたる工事に踏み出す姿が描かれていました。終電から始発までのわずかな時間や年末年始の限られた期間を使い、日常生活への影響を最小限に抑えるために何度もリハーサルを重ねて実行する。そのプロフェッショナル精神、緊張感、一体感にただただ感動しました。
立役者として紹介された方は、誰もやりたいと言い出せなかった工事に先陣を切って挑み、フォーマルな会議の場だけでなく、飲み屋でのやりとりのような非公式の場でも、自らの理想を一貫して語り続け、各社を動かしていくに至ったそうです。その姿に「言行一致」という言葉を思い出します。自分のふるまいを一貫させることと、信頼が結びついているのだと改めて感じました。
一方で、最近「経営理念」として提示するより「Our Purpose」の元でメッセージを発信する企業が増えた気がする、という意見をいただきました。確かに、データをみてもこれまでのように現在や過去の取り組みを語るより、未来の目標を掲げるケースが多くなっているような気がします(実際自身の調査でもそれに繋がる結果は見られています)。その未来志向の言葉は、耳障りはいいですが、叶わなかったときの「逃げ」が通じてしまう危うさもあるように思います。
ここで思い浮かんだのが、間接言語行為(indirect speech act)です。井上(2015)は次のように説明しています。
「直接的には叙述的な文、説明的な文であるのに、『警告』などの言語行為となるように、実際のコミュニケーションにおいては形式とは異なる間接的な言語行為がしばしばなされる。」
たとえば、
A: Let's go to the party tonight.
B: I have to study for an exam.
一見するとBは自分の事情を説明しているだけのようですが、実際には「断り」という言語行為を成し遂げています。つまり、直接の言語行為のタイプとは異なる行為を、会話の含意によって遂行しているわけです。聞き手は「協調的に解釈しよう」という大前提に基づき、試験勉強とパーティー参加との関係を推測し、Bの発話を「パーティーには行けない」という意味として理解します。
このような発話は「発語内の効力(force)は取り消し可能(cancellable)」であるとも言われます。もしBが「やっぱり勉強の合間に少し顔を出すよ」と言えば、それまでの発話の効力は取り消せるからです。
一方で、間接言語行為には「慣用的(conventional)」なものもあります。たとえば、
Can you open the window?
これは形式上は「質問」ですが、実際には「依頼」として解釈されます。同じ意味のはずの Are you able to open the window? では依頼のニュアンスが成立しにくいことから、"Can you ~"の方は「依頼」の慣習的な言い回しとして定着していると説明できます。
最近私が気になるのは、何かを依頼されたときに「はい」と言う代わりに、「頑張ります」「検討します」といった未来の行為に置き換える表現が目立つことです。企業のPurposeのスローガンなども、どこか似た毛色を帯びているように思います(もちろん、まだ数値化しているわけではないので今後調べてみたいところですが)。これは、「未来の努力を表明することで肯定を示す」間接言語行為でありながら、その「肯定」は取り消し可能なものでもある。その意味で、リスク回避的に響いてしまうのでは・・・と考えています。
対して先に取り上げたプロジェクトXでは、理想を述べるだけで終わらず、その後も一貫して行動で示し、相手を動かして現実を変えていく様子が描かれていました。その差はどこから来るのか、もちろん人柄や状況もあるでしょうが、言葉に効力を持たせる要因とは何か。これまでの研究を振り返りつつ、自分なりの考えを整理していけたらと思います。
参考
井上逸兵 (2015) 『グローバルコミュニケーションのための英語学概論』 慶應義塾大学出版会.
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[間接言語行為] [協調の原理]