#33 同じ方向を向く
先日、もうすぐ1歳になる友人の子どもに会い、恩師の研究室を一緒に訪ね、その後食事もともにしました。印象的だったのは、写真を撮ろうとカメラを向けたときに、指さした方向をしっかり見ていたこと。そして、自分の手にしたものを「どうぞ」と差し出してくれたことでした(お気に入りのものについては渡すふりをして、自分でぎゅっと握りしめたままのこともありましたが、それもまた気持ちが嬉しかったです)。
恩師はその様子を見て「9カ月革命だね」とおっしゃり、その意味を簡単に説明してくださいました。それを受けて、もう一人の友人(4~5カ月の子どもを育てている父親)も「成長の段階や仕組みを知れば、子育てがもっと楽しくなりそうだな~。」と話していて、とても印象に残る一幕となりました。
川田(2009)によれば、「他者を自己と同じように内面をもつ存在として理解し、自己と区別する能力」は生後数か月を経て獲得され、Tomasello(1999, 2006)はその転換期を生後9カ月頃とし、「9カ月革命(the nine-month revolution)」と呼んでいます。また大神・実藤(2006)は、自分と養育者の二項関係から、第三の事物を介した三項関係コミュニケーションの開始こそが実質的な社会的認知の始まりであり、これ以前と比べて画期的な変化を示すことから「奇跡の9カ月(Tomasello 1995)」と呼ばれることを紹介しています。
さらに、大神・実藤(2006)は共同注意(joint attention)の広い定義についても触れ、自己―対象―他者の三項関係の中で、視線追従や指さし理解などの応答的行動だけでなく、提示・手渡し・交互凝視といった行動も含まれるとしています(Muyndy Sigman & Kasari 1990)。
ここでいう「第三の事物」や「対象」にあたるのが、先の場面でいえばカメラや、子どもが私に「どうぞ」と渡してくれた物でした。対象を介して自己と他者がつながり、共同注意(joint attention)が生まれていることを、まさに目の前で実感できた瞬間でした。
こうしたやりとりを目にして、「ああ、こうして社会的な成長を遂げていくのだな」と胸が温かくなりました。
参考
大神英裕・実藤和佳子 (2006). 共同注意―その発達と障害をめぐる諸問題. 教育心理学年報, 45, 145–154.
川田学 (2009). 乳児期における自他関係発達の諸問題: Tomasello と Meltzoff の理論に関する批判的検討を通して. 心理科学, 30(1), 72–85.
Tomasello, M. (1995). Joint attention as social cognition. In C. Moore & P. J. Dunham (Eds.), Joint attention: Its origins and role in development (pp. 103–130). Lawrence Erlbaum Associates, Inc.
Tomasello, M. (1996). Do apes ape? In C. M. Heyes & B. G. Galef, Jr. (Eds.), Social learning in animals: The roots of culture (pp. 319–346). Academic Press. https://doi.org/10.1016/B978-012273965-1/50016-9
Tomasello, M. (1999). The cultural origins of human cognition. Harvard University Press. (マイケル・トマセロ 著, 大堀壽夫・中澤恒子・西村義樹・本多啓 (訳) (2006). 『心と言葉の起源を探る―文化と認知』 新曜社.)
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