#16 空間がつくるコミュニケーション
昨日ご紹介した「タタミゼ(tatamiser)」という言葉。フランス語では日本風の室内様式を取り入れることを意味しますが、鈴木孝夫先生はそれを空間にとどめず、日本語を通じて日本語的な感覚を持つことにも広げて用いられていました。
先生は空間とことばの結びつきまでは直接触れていなかったと記憶していますが、今日はその「空間」と「言語使用・コミュニケーションスタイル」の関係について、興味深い研究を紹介したいと思います。
須田(2004)は「空間における文化の差異は、様々な意味で人間のコミュニケーションに大きな影響を及ぼしている」と述べ、アメリカ、ドイツ、日本のオフィス空間を比較しています。
アメリカでは個人用のキュービクルが並び、角部屋の大きな部屋には幹部が入ることが多い。部屋の大きさがそのままステータスを示し、ドアの開閉が非言語的な合図になります。半開きなら「入ってきてもよい」、閉まっていれば「不在」あるいは「邪魔されたくない」というサイン。
ドイツでは幹部は奥の広い部屋に構え、部下はその両脇に並ぶものの、部屋の大きさに差はありません。ドアは常に閉じられ、部下を上司の視線から守る役割を果たしています。同僚でさえ隣の部屋に誰がいるのか分からないこともあるそうです。
日本では一つの部署が大部屋に集まり、机は横に列を作りながら向かい合う配置。上司も同じ部屋に机を並べ、衝立はほとんどありません。部屋の様子は一目で見渡せ、電話の声や会話も自然と耳に入ってきます。そのため情報が流れやすく、高コンテクスト文化の特徴が色濃く表れています。
もちろんこれは典型的な例で、業種や時代によっても変化はあります。とはいえ、日本のドラマや映画のオフィスシーンを思い返すと、たしかに本人の意志とは関係なく会話を「聞いてしまっている」人が登場し、その情報を当然のように理解している描写が少なくありません。一方、アメリカやドイツではそうした「漏れ聞こえ」はなく、情報はしっかりと言語化して伝え合う必要があります。
最近ではYouTubeなどで各国のオフィスVlogも上がっているので、見比べてみるとさらに面白いと思います。また、コロナ禍をきっかけとするリモートワークの増加や、場所を転々とするノマドワーカーの誕生がこれからのコミュニケーションにどのような影響をもたらすのかも気になります。
そうした大きな話はひとまず置いておいて、個人の暮らしに引き寄せて考えてみると、これもまた面白いものです。一緒に暮らす人とどんなコミュニケーションを取りたいか、どんな関係を築きたいか。それをまず考えてから空間をデザインする。そんな発想も素敵だなと思います。
参考
須田 紀子. (2004). 異文化理解への道. 東京: 青山社.
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[異文化コミュニケーション] [高コンテクスト文化] [タタミゼ]