#6 断り方もいろいろ
この時期になると、毎年思い出すことがあります。それはたいてい、過去のちょっとした後悔からくるのですが、決してネガティブではなく、「次はこうしよう」という前向きな気づきですので、よろしければお付き合いください。
それは今からおよそ10年前、2016年の夏、カナダに語学留学していたときのこと。授業の終わりに、たしかヨーロッパ(スペインだったかも)出身のクラスメートが「週末、一緒に出かけない?」と誘ってくれました。正直、そのときは疲れていて、英語を話し続けることがかなりしんどく(これは今もですが)、つい「ごめん、宿題が多くて…また次誘って」と断ってしまいました。すると、少し微妙な空気が流れ、それ以降、その子から誘われることはありませんでした。
当時は何が悪かったのか分からなかったのですが、その後、英語学を学んでいく中でその理由が少し見えてきたように思います。ここに関わってくるのはポライトネス(Brown & Levinson 1987)と、対人関係の上での人間の願望を示すフェイス(Goffman 1967)の概念です。人々は、依頼・誘い・助言・謝罪などのスピーチアクト(発話行為:意図の伝達)において、自分の発話がどの程度相手のフェイスを侵害するかを判断し、良好な対人関係を維持するために侵害を和らげる言い方をするとされています。
フェイスとそれに伴う配慮には次の2種類があります(清水 2016 p.5):
ポジティブ・ポライトネス:ポジティブ・フェイス(他人から承認されたい、自分の考えや行動を好ましく思われたいという連帯の願望)を満たそうとする配慮。
ネガティブ・ポライトネス:ネガティブ・フェイス(自分の行動を他人から邪魔されたくない、他人の意見や考えを押しつけられたくないという独立の願望)を守ろうとする配慮。
清水(2016)は、今回のような「断り」の場面でネイティブがどのように発言するのが自然かを実際のデータで検証しています。相手の誘いを断ることは、相手のポジティブ・フェイスを脅かすため、細心の注意が必要だと述べています。対象として、クライアント担当者からの会食後の飲みの誘いと、上司からの異動の打診という二つのシーンを分析していますが、どちらにも共通して見られたのは、「相手のポジティブ・フェイスを満たすために、返事は『肯定』(例:That sounds good!(いいですね!) / I would absolutely love to.(ぜひご一緒したいのですが))か、『感謝』(例:Thank you for the offer. / I appreciate your offer.(お誘いありがとうございます))で始めることが多い」という点でした。もちろん、その後になぜ断るのかという「説明」や、断ることへの「謝罪」も補助的に加えられますが、「感謝」で始めるというのは意外と難しいことだと思いました。
また、文化によっても違いがあり、清水の分析によれば、アメリカ英語は「感謝」、イギリス英語は「謝罪」を使う割合が高いそうです。とはいえ、ポジティブに始めるほうがまず間違いはないなと感じます。
もしあのときに戻れるなら、私はこう返したいです。
“That sounds like so much fun! I’d love to, but I have a lot of homework this weekend. Maybe some other time!”
参考
Brown, P., & Levinson, S. (1987). Politeness: Some universals in language usage. Cambridge: Cambridge University Press.
Goffman, E. (1967). Interaction ritual: Essays on face-to-face behavior. Garden City, NY: Doubleday Anchor.
清水 崇文 (2016) 『心を動かす英会話のスキル』研究社.
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