#3 プレゼンテーションはインタラクション
担当している多くの授業で学生にプレゼンテーションをしてもらっていますが、その際に力を入れているのは、話し手よりも聞き手側の練習です。
その背景には、話し手の発話が聞き手によって変化するというオーディエンスデザインの考え方(”In audience design, speakers accommodate primarily to their addresse" p. 145)があります(Bell 1984)。ベルはラジオのニュースキャスターの発話スタイルを対象にしていますが、そうしたメディアの発信は、一方通行のように見えて、実は双方向的なインタラクションで成り立っている(多々良 2017)という主張も意識しています。これらの考え方はもともと語の選択やイントネーションといった発話スタイルの変化に注目するものですが、プレゼンテーションの場では、プレゼンターの発話内容やその質、情報量にまで広く適用できると私は考えています。
オーディエンスデザインでは、聞き手を距離や意識の近さによって段階的に分け、近い聞き手ほど話し手に強く影響するとされます。
We may distinguish and rank audience roles according to whether or not the persons are known, ratified, or addressed by the speaker. The main character in the audience is the second person, the addressee, who is known, ratified, and addressed. There may also be others, third persons, present but not directly addressed. Known and ratified interlocutors in the group, I term auditors. Third parties whom the speaker knows to be there, but who are not ratified participants, are overhearers. Others parties whose presence is unknown are eavesdroppers, whether intentionally or by chance.
(Bell 1984, p. 158)
授業に置き換えれば、教員 → 前方の学生 → 後方の学生、といった具合です。
私は授業中、聞き手として(おそらく)影響力の大きい立場であることをふまえ、なるべく声を出して相槌を打ち、ときには短い言葉でリアクションを返すようにしています。学生には、声を出さないまでも、頷きや視線を向けるように聞き手のリーダーとして協力を促します。プレゼンテーション終了後には、拍手(ここもかなり重要と言われています e.g., 村田 (2023))の後に何人かにコメントしてもらうのですが、漠然とではなく、「3文ルール」という形にしています。
3文ルール
ほめことば(compliments) Your slides are so stylish!
発表内容に関連するコメント I found it interesting. Climbing is an amazing hobby.
発表内容に関連する質問 Where do you want to go in the future?
このルールは日本語でも英語でも同じです。
1は以下の交感的コミュニケーション(phatic communication)やスモールトーク(small talk)の考えに基づき、その場に良い雰囲気を流すことを意識して取り入れています。
そもそもスモールトークの研究は、ことばの交感性 (phatic communion) に着目したマリノフスキー(1927) の研究を起点とし、日常的なあいさつや天気の話題、ゴシップといったおしゃべりが、情報伝達や合意形成のみならず、対人関係の維持や確認、話者間の親密性の指標のために機能することが報告されてきた (Laver 1975; Cheepen 1988; Schneider 1988 等)
(井出 2014, p.89)
2と3は、その発表ならではの独自コメントや質問を通じて関心を示し、発表者とオーディエンスの間に自然なやり取りを生み出すためです。質問は確認や聞き直しでも構いません。
英語の場合は、最初は翻訳ツールの使用も認め、自分なりの型を作ることから始めます。慣れてくると、ボランティアで3文ルールを実践してくれる学生も増えてきます。そうなると、話し手も聞き手とのつながりを意識し、発表の情報量を調整したり(質問しやすいようにに情報を小出しにするなど)、質を高めようとしたりするのです。
それでも教員である以上、語り手としての責任から逃れることはできません・・・。自分の専門を魅力的に伝えられるよう、そして学生が話しやすい場を作れるよう、これからも精進していきたいと思います。どうぞ温かい目で、そしてリアクション大きく見守ってくださいませ。
参考
井出里咲子(2014)「スモールトークの公共性 : アメリカ社会におけるおしゃべりとその詩的機能をめぐって」『論叢 : 現代語・現代文化』12, 87–101. http://hdl.handle.net/2241/00123013
多々良直弘(2017)「報道の社会言語学」井上逸兵(編)『社会言語学』(朝倉日英対照言語学シリーズ 発展編1, pp. 53–67)朝倉書店.
村田和代(2023)『優しいコミュニケーション:「思いやり」の言語学』岩波新書(新赤版1971), 岩波書店.
Bell, A. (1984). Language style as audience design. Language in Society, 13(2), 145–204. Cambridge University Press. https://www.jstor.org/stable/416751
Malinowski, B. (1927). The problem of meaning in primitive languages. In C. K. Ogden & I. A. Richards (Eds.), The Meaning of Meaning: A Study of the Influence of Language upon Thought and of the Science of Symbolism (pp. 296–336). London: Kegan Paul, Trench, Trubner & Co. Ltd.
Laver, J. (1975). Communicative functions of phatic communion. In A. Kendon, R. M. Harris, & M. R. Key (Eds.), The Organization of Behaviour in Face-to-Face Interaction (pp. 215–238). The Hague: Mouton.
Cheepen, C. (1988). The Predictability of Informal Conversation. London: Pinter Publishers.
Schneider, K. P. (1988). Small Talk: Analysing Phatic Discourse. Marburg: Hitzeroth.
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[オーディエンスデザイン] [交感的コミュニケーション]