#127 ずらして和らげる
前回の記事では、テレビCMの宣伝において、直接的な提案を避けつつ、間接的に提案を行う方法として、テレビCMには少なくとも4つのタイプがあることを紹介しました。今回はそのうち、実際のCMで確認された3つのタイプについて、具体例を挙げながら整理してみます。
まず一つ目は、participant shift(参与者のずらしによる間接化)です。これは「誰が視聴者に提案を行うのか」という点をずらすことで、提案性を弱める方法です。
たとえば英語CMでは、
E49 “Consider the Acura Legend Coupe.”(男性ナレーター)
E36 “So don't get confused. Shop where you like, but start at your Buick dealer.”(画面内の女性)
日本語CMでは、
J40 「いま、ピップエレキバンを買うと、18金とダイヤでできた素敵なプチペンダントが抽選で当たります」(男性ナレーター)
J8 「眼科医の指示にしたがい、正しくご使用ください」(文字のメッセージ)
といった例が見られます。視聴者に「買いなさい」と直接語りかけるのではなく、語り手をずらすことで、提案の圧を弱めている点が特徴的です。
二つ目は、action shift(行為のずらしによる間接化)です。提案は時に、相手のフェイスを脅かす行為になります。そのコストを最小限にするために、「買う」という行為そのものではなく、別の行為を提示するケースが多く見られます。具体的には、suggestion to buy / to get / to use / to enjoy benefits、あるいは行為を特定しない suggestion with unspecified action などです。
たとえば suggestion to enjoy benefits では、
E43 “Instead of spending your evening creating a classic, you can spend it enjoying one.”(男性ナレーター)
J13 「さあ、始めませんか、いい息の習慣?」
といった形で、「買う」ではなく相手が利益を得ることができるといった行為が前面に出されています。
また、suggestion with unspecified action は、比喩的であったり、具体的な行為が特定できない形で提示されるものを指します。
E41 “Listen to the heartbeat of America.”(歌詞)
J17 「今年は、ファインな生ビール」(画面内の男性タレント+印刷メッセージ)
三つ目は、linguistic indirection(言語的な間接化)です。英語CMでは、you should や you ought to、I suggest that のような直接的な表現は意外なほど少なく、
E25 “You'd probably like to know...”
E9 “It's a good time for the great taste at McDonald's.”
といった、判断を視聴者に委ねる言い回しが多く見られます。
さらに、名詞化(nominalization)によって提案性を弱める例として、
E17 “Suddenly, the obvious choice.”
のような表現も紹介されています。
今のテレビコマーシャルはどうでしょうか・・・?
参考
Schmidt, R., Shimura, A., Wang, Z., & Jeong, H. (1995). Suggestions to buy: Television commercials from the U.S., Japan, China, and Korea. In S. Gass & J. Neu (Eds.), Speech acts across cultures: Challenges to communication in a second language (pp. 285–316). Berlin: Mouton de Gruyter.
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