#125 テレビCMのことば
Shmidt et al. (1995) の Suggestions to buy: television commercials from the U.S., Japan, China, and Korea という論文を読んでいます。この論文は、テレビCMにおいて視聴者の購買を促す「提案(suggestion)」というスピーチアクトが、アメリカ・中国・韓国・日本でどのように実現されているかを比較したものです。
読んでいて特に面白いと思ったのは、「誰がそのスピーチアクトを担っているのか」という点です。具体的には、映像の中に登場する人物が語る場合(on-screen character)、画面上の文字として提示される場合(printed messages:スクリプトを読み上げるというより、文字で示される形)、歌の歌詞の中で語られる場合、そして最も頻度が高いのが、映像には登場しないナレーションによる語り(off-screen announcer)です。
英語のCMでは、54例中34例が off-screen announcer によるもので、そのうち33例が成人男性の声だったと報告されています。一方、中国も off-screen announcer が多い点では共通していますが、その声は女性であることが多いそうです。
日本の場合はというと、spoken messages(話し言葉)よりも printed messages(文字情報)が多く使われている点が特徴的です。また、on-screen actors と off-screen announcer の割合は同数で、ここはアメリカとは異なる点です。さらに、話者の声については、1例の女性と子どもの声を除いて、ほとんどが男性だったとされています。
韓国では、printed messages は使われず、約半数が off-screen announcer によるもので、ジェンダーの偏りは見られず、男性と女性の声がほぼ同数確認されたとのことでした。
ナレーションの声については、これまで特に意識して考えたことがなかったので、こうした違いがあるという点は率直に面白いと感じました。1例に過ぎないため、ここから何かを強く主張することはできませんが、それでも自分自身の記憶を振り返ってみると、日本のCMでは子どもに語らせるという手法が用いられている印象があり、この点が他国ではあまり見られていないという指摘は興味深いと思いました。
また、本研究は約30年前のものであるため、現在のCMではどのような傾向が見られるのかについても、改めて調べてみたいと感じました。
参考
Schmidt, R., Shimura, A., Wang, Z., & Jeong, H. (1995). Suggestions to buy: Television commercials from the U.S., Japan, China, and Korea. In S. Gass & J. Neu (Eds.), Speech acts across cultures: Challenges to communication in a second language (pp. 285–316). Berlin: Mouton de Gruyter.
keywords
[スピーチアクト] [広告]