#124 ポップアップグロス
井上(2017)では、日本映画の英語字幕翻訳について、次のように指摘されています。「聴衆は英米圏の人たちが想定されているため、瞬時につじつまが合い、自然な会話として受け取られるような訳でなければならない。この即時性が大きな制約であり、小説の翻訳のように説明的に長く訳したり、訳注をつけたりすることはできない」。そのため、こうした制約が「苦し紛れの訳や誤訳に見えるような字幕が生まれる理由でもある」と述べています。
ここには注が付されていて、「ファンサブ」には小説の訳注に近い情報の補足が見られる点にも触れられています(ただし紙幅の都合で詳細な議論はされていません)。実際、ファンサブはファンによって作られるもので、積極的に日本語を残したり注釈をつけたりして、公式字幕のような制約にとらわれず情報をしっかり提示しているという特徴があります(画像参照)。
豊倉・山田(2017)では、Caffrey(2012)による「ファンサブなどで用いられる注釈字幕(pop-up gloss)の有無が視聴者に与える認知的負担の研究」が紹介されています。一見すると、注釈がつくことで視聴者の負担は増えるように思われますが、研究では、注釈字幕を提示することで作品理解が深まり、結果として作品を鑑賞するための認知負荷はトータルで軽減されたと報告されているそうです。
また、現在は YouTube や Netflix など、視聴者が好きなタイミングで巻き戻したり早送りしたりできる環境が一般的になりました。こうしたメディア環境の変化は、今後、字幕の文字数制約にも何かしらの影響を与えていくのだろうか……と考えると、引き続きとても興味深いテーマだと感じます。
参考
豊倉省子, & 山田優. (2017). 字幕翻訳における文字数制限の妥当性についての検証〜1秒4文字は妥当か?〜. 通訳翻訳研究への招待, 18, 33–52.
Caffery, C. (2012). Using an eye-tracking tool to measure the effects of experimental subtitling procedures on viewer perception of subtitled AV content. In E. Perego (Ed.), Eye tracking in audiovisual translation (pp. 223–258). Rome: Aracne Editrice
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