#122 1秒4文字のルール
字幕翻訳について、井上(2017)の分析では、恐れずに簡潔に言えば、字幕は文字数の制約があるため、その状況で視聴者に受け入れられやすい形で訳される傾向があるとされます。ここでは、ソース文化の情報をできるだけ残す「異質翻訳」の価値を否定するわけではありませんが、字幕というメディア特有の制約の中では、その場面にふさわしい形で意味を調整していく「受容翻訳」のほうにコミュニケーションの原理がより表れやすいとして、この側面に着目して分析が進められています。
この字幕翻訳の文字数制限は「1秒4文字」と言われていて、その起源は1931年の映画『モロッコ』の日本初の字幕付き上映に遡るそうです(豊倉・山田 2017)。戸田(1994)によれば、一説として、新橋の芸者を集めて字幕付きフィルムを見せ、平均的な日本人が字幕を読む速さとして「1秒3〜4文字」が適当と判断され、その後、科学的検証がほとんどないまま85年以上も使われ続けてきたという話も紹介されています。
英語字幕では事情が少し異なり、豊倉・山田によれば、「英語字幕にはいわゆる “6秒ルール” があり、快適に視聴するために、字幕の提示時間は6秒以内に収める」という考え方が一般的だそうです。
豊倉・山田は、字幕翻訳者の視点から、次のような特徴をまとめています。英日字幕における「1秒4文字」という制約に収める必要があるため、修正や編集の作業量は必然的に増え、それに伴って翻訳者の認知負荷もより高くなるというものです。つまり、字幕翻訳者は、ときに切り捨てや言い換え、要約が求められ、常に選択を迫られるわけです。
「1秒4文字」は本当に妥当なのか。この点についての豊倉・山田の検証は、次の記事で触れたいと思います。
参考
井上逸兵編. (2017). 『社会言語学』朝倉書店.
戸田奈津子 (1994) 『字幕の中に人生』 白水社
豊倉省子, & 山田優. (2017). 字幕翻訳における文字数制限の妥当性についての検証〜1秒4文字は妥当か?〜. 通訳翻訳研究への招待, 18, 33–52.
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