#115 駄洒落のルール
Sacks (1973) の On Some Puns: With Some Intimations という論文を読みました。これは、「草(kusa)」の使用を考えるうえで参考になるかもしれない、というご意見をいただいたことがきっかけです。
この論文の目的は、ダジャレ(puns)が会話の中でどのような順番構造(sequential ordering)をもって現れるのかを明らかにすることにあります。Sacks は冒頭で “My substantive aim is to show a conversation sequential ordering that can be found for a characterizable class of puns.” と述べています。
興味深い点として挙げられているのは、ダジャレが「決まった表現」や「共有されている知識(proverbial expressions)」の中で起きることが多いという観察です。“(Sometimes) puns occur in ‘proverbial’ expressions.” とあるように、慣用的な言い回しや誰もが知っているようなフレーズの中で pun が発生しやすいと指摘されています。
論文には具体的な会話例がいくつか示されています。その一つでは、Ken が、ある女の子(家族と思われる)の部屋が最近また張り替えられ、壁も天井もビートルズの写真で埋め尽くされていることを話します。Louise は、それはその子の友達がみんなビートルズに夢中だからだと説明し、「若い子には憧れる“アイドル”が必要なのよ (“Well they need some kinda idol you know, something to look up to”)」と言います。すると Ken は、「アイドル!あいつらカンガルーみたいじゃん (“Idol! They look like kangaroos.”)」と返すのですが、ここでは “look up to” が「尊敬する」と「見上げる」の二重の意味をもち、pun の成立に寄与しています。
また、こうしたダジャレが会話のどこに出現するのかについても議論があります。Sacks は、story が語り終えられた直後、つまり語り手の話がひと区切りついた「story completion」の位置において、受け手(recipient)が理解を示すために proverbials を用いることがあると指摘します。“(Sometimes) proverbials occur on story completions. When done there by a story recipient they are at least partially occupied interactionally with exhibiting understanding of the story they succeed.” という記述の通り、pun は単なる語呂合わせではなく、前の発話を理解していることを示す相互行為的な装置として働いているという見方が示されています。
さらに、論文の別の例では、下ネタやジョークが続くやり取りの後に pun が挿入されることで、話者がそれまでの下ネタ的な流れを直接言わずに示唆し、他の参加者もその理解を共有する様子が描かれています。ここでも pun が、話題の理解を間接的に指し示す手段として機能しています。
こうした点を踏まえると、「草」も、当たり前で皆が予測できる話題のなかで使われたり、相手の発話を「わかっているよ」ことを前提に、解釈を方向付け共有するマーカーとして働いたりする点で、Sacks が描いた pun の機能と似ているところがあるように思います。今後さらに検討していきたいところです。
参考
Sacks, H. (1973). On some puns with some intimations. In Report of the twenty-third annual round table meeting on linguistics and language studies (pp. 135-44).
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[会話分析] [シークエンス] [ダジャレ]