#113 草のバリエーション
11月29日、30日と語用論学会で、開催校としてのお手伝い、そして共同発表をしました。たくさんの方々に来ていただき、本当に嬉しかったですし、厳しい意見やアドバイスも含めて、今後に必ず生かしたいと強く思う時間になりました。
今回の発表では、デジタルコミュニケーションにおける「草」が、(笑)や w などの他の笑い表現とは異なり、独自の形式や機能をもって笑い表現として使われていること、その語用論的機能について考察した内容をお話ししました。
「草」は基本的には節の内部で名詞的・形容詞的に使用されるのですが、数は少ないながら、節の外側に配置されて「〜じゃねえんだよ草」のように、(笑)と似たような形で文末に添えられて使われる例も確認できました。この点について、草が命題に直接貢献しない語用論マーカーとして使われている可能性(例えば「○○いかない?笑笑」のように、相手に負荷がかかる行為に“笑”を添えて、負荷を弱めたり断りやすくしたりする機能:Takamura 2023)については軽く触れましたが、草の使用にはそれ以外にもいくつか気になる特徴があります。
たとえば、
・一定のパターンで使われるようになってきていること
・「草が生える」ではなく「草生える」、また「フジ会見10時間草」のように助詞が抜けて使われること
・文末に添える使い方が少しずつ定着してきていること
などから、ある種の「文法化」の兆しが見られるのではないかとも思えます(自分たちもその意識を持っていましたし、実際コメントでも指摘をいただきました)。
文法化のプロセスとして、『認知言語学キーワード辞典』では Heine & Kuteva (2002a:2) の4つのメカニズム――①脱意味化、②拡張、③脱範疇化、④縮約――が挙げられています。英語の will が一般動詞から助動詞になる過程で、意味が薄れ、人称変化が消え、音形が弱まった例などは典型的です。
また、Markman (2013) は、英語の lol がもともとは laugh out loud の頭文字であるものの、その字義的な意味が弱まり、discourse marker として機能している可能性を指摘しています。
具体的には、
・単独でターン交替の合図として使われる stand-alone lol
・文末について、相手に寄り添ったり playful / humorous な方向へ誘導する transmission-final lol
・文頭について、"well", "yeah but" のように同意・不同意の前置きとして働く transmission-initial lol
などのパターンです。これらは、lol の本来の意味から派生した語用論的な働きだと考えられます。
草にも、こうした lol の使われ方と似た側面があるのかどうか、まだまだ検討しなければならない問題が多く、ひとまずここに書き留めておきました。
参考
Heine, B. and T. Kuteva. (2002a). World Lexicon of Grammaticalization. Cambridge Univ. Press
Markman, K. M. (2013). Exploring the pragmatic functions of the acronym lol in instant messenger conversations. In International Communication Association annual conference, London, UK.
Takamura, Ryo. (2023). Pragmatic functions of wara in Japanese text messages. Journal of Japanese Linguistics 39, 261-283.
辻 幸夫(編). (2013). 新編 認知言語学キーワード事典. 研究社.