#95 本当のジャパニーズ・スマイル
来たる語用論学会に向けて、笑い表現に関する論文を読み漁っています。
その中でも印象に残ったのが、早川(1995)のイントロダクションです。早川は、意味なく笑う日本人を表す「ジャパニーズ・スマイル」という表現を取り上げ、それに対して次のように問いかけます。
「それは本当に意味のない『笑い』なのだろうか。むしろ反対に、きわめて意味のある日本的な表現活動なのではあるまいか。日本語学習者が日本語を上手に使いこなすには、日本人のように『笑う』ことが『文法的に正しい文を使うこと』、『適切にあいづちを打つこと』と同様の必須条件であると考えられる。」
早川は、「笑い」を日本語の談話展開上のストラテジーとして位置づけ、その機能を分類しています。大きな枠組みと下位分類は以下の通りです。
A:バランスをとるための笑い(照れによる笑い/緊張緩和の笑い/恥による笑い/内容を軽くする笑い)
B:仲間づくりの笑い(場を盛り上げる笑い/人を誘いこみたいときの笑い/共通の理解をもつ仲間同士の笑い/親しみの笑い)
C:フィラーとしての笑い(ごまかしの笑い/とりあえずの笑い)
中でも興味深いのは、Bの「共通の理解を持つ仲間のあいだの笑い」です。早川はこれを、単に話題の共有にとどまらず、「話し手と聞き手の一体化、つまり二人の世界の共有を通じて仲間意識を高めるもの」であり、同時に「仲間以外の世界に閉じていく側面」もあると述べています。
たとえば、次のようなやり取りが紹介されています。
A:今出まーすっつって。
B:今出るって。
A/B:そば屋の出前(笑い)
A:知ってる?(Cに向かって)なんでもね、「今やります」とか「今行ったばかりです」とか、そういうふうにね、ちょっとした言い訳をするのを「そば屋の出前」って言うの。日本語で。
書き言葉や打ち言葉の世界の笑い表現は、「(笑)」「w」「草」など、表記のバリエーションも多様に広がっています。こうした笑いの使い分けを無意識のうちに行っている人間の言語能力、恐るべしです…。
参考
早川治子. (1995). 日本人の 「笑い」 の談話機能. 言語と文化, 7, 99-110.
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