#85 ひとのことば(3)
昨日から紹介している人間の言語の特徴について、今日は最後の二つをまとめたいと思います。
まず、⑥の転位(可能)性とは、「コミュニケーション行動において、記号をそれが表現するものと、時間的・空間的な距離を置いて使うことを可能にするような特性」のことを指します。つまり、過去や未来、または遠く離れた場所での出来事を語ることができるという点に、この特質がよく表れています。一見すると、ミツバチのダンスも蜜を見つけて、その位置を仲間に知らせるという点で、時間的にも空間的にも転位可能性を持つように見えます。しかし唐須は、ミツバチは回り道をして用を足したりせず、まっすぐに巣に飛んで帰る点において、刺激の制約からは自由になっていないと指摘しています。つまり、ミツバチのダンスは人間の言語のような自由な転位ではないのです。
次に、⑦の文化的伝達とは、「コミュニケーションの手段が有機体に遺伝的に組み込まれていて、それが次代に伝わるのではなく、教育と学習によって受け継がれて行くこと」であるとされています。唐須はこれについて次のように述べています。
現在の言語理論が主張するように、確かに人間は言語の修得を可能にするような能力が生まれながらに備わっているであろうが、そのような能力は、教育と学習によって初めて特定の形に実現するのであり、その意味では、日本語とか英語という特定の言語の修得は、教育と学問に負っていると言える。
これまで取り上げた言語の特徴は、それぞれ独立しているように見えても、実際には相互に関連し合っていると述べられています。例えば、「生産性」という特徴は記号の「恣意性」という特徴があってこそ十分に発揮されるものです。したがって、一つ一つの特徴を明確に二分するのは難しく、程度の問題として捉える方が適切であると指摘されています。
そして何より重要なのは、動物との比較を通して見えてくる点です。唐須は「全ての項目を完全な形で持っているのは人間言語だけであり、他の動物のコミュニケーションシステムはその点で人間の言語には遠く及ばない」と述べています。
参考
唐須教光(1988)『文化の言語学』勁草書房
keywords
[転位可能性] [文化的伝達] [生産性] [恣意性]