#111 ヨソに向けられることば
前回・前々回の内容とも関連しますが、韓国のウチ/ソトの捉え方が日本と少し異なるという話に触れたこともあり、日本におけるウチ・ヨソ・ソトの区別について改めて文献を読み返していました。
三宅(1994)は、日本語の「感謝」と「詫び」の関連性について考察しており、特に「すみません」が謝罪だけでなく感謝や挨拶として多用される点に注目しています。この使われ方は、「指導教官(特に緊密ではないが関連がある=ソトで、かつ目上)」に対して顕著に増えることが、三宅(1993, 1994)の調査で明らかになっています。
これに関連して三宅は、「日本人はソトの人間に対して極めて敏感で注意深く丁寧にふるまうが、ヨソの人間に対してはその傾向が見られない」と述べています。
井出他(1986)の研究でも、ヨソに対しては“中くらい”の待遇や丁寧度が使われるという結果が示されており、丁寧さのレベルは一般に、ウチ → ヨソ → ソトの順で高まるとされています。一見すると、もっとも距離のあるヨソが一番丁寧になりそうですが、実際にはそうではないという点が非常に興味深いところです。
三宅はこの点を説明する例として、日本人に対する外国人の典型的な疑問を挙げています。たとえば、「取引先には丁寧で気を配る会社員が、仕事帰りの電車では大きないびきをかいて周囲に迷惑をかけてしまう」場面など、いわゆる礼儀正しい日本人というステレオタイプから外れて見えるケースです。また、団地のエレベーターでは挨拶をしなかった人が、子供の小学校が同じだと分かった途端に丁寧な態度に変わる、といった例も紹介されています。相手に関する情報が増え、自分との関連が生じることで、ヨソだった相手がソトのカテゴリーにシフトする、という分かりやすい実例です。
また、三宅はヨソのやり取りの研究には難しさがあるとも述べています。やり取りの多くが自己の意識にのぼらないため内省があまり当てにならず、データ収集には工夫が必要です(セールスマンや宗教の勧誘、通行人に道を聞く場面、声をかけるきっかけづくりなど)。
改めてこうした文献を読みながら、自分自身のヨソとしてのふるまいはどのような言語活動になっているのか、少し注意して観察してみようと思いました。
参考
三宅和子(1993)「感謝の意味で使われる詫び表現の選択メカニズム」『筑波大学留学生センター日本語教育論集』第8号、筑波大学
三宅和子(1994)「『詫び』以外で使われる詫び表現―その多用化の実態とウチ・ソト・ヨソの関係―」『日本語教育』82号、日本語教育学会
三宅和子. (1994). 日本人の言語行動パターン: ウチ・ソト・ヨソ意識. 筑波大学留学生センター日本語教育論集, 9, 29-39.
井出祥子他(1986)『日本人とアメリカ人の敬語行動』南雲堂
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[ウチ/ソト]