#101 メタの再考
月末の語用論学会の発表に向けて、「フレーム」や「メタ・コミュニケーション」といった概念を改めて整理しています。その中で岡本(2016)を読み返していたのですが、「コンテクスト化の合図(contextualization cue)」と「メタ・メッセージ」が、どちらもメッセージの解釈を方向づけるという点で似ており、実際に自分でも混乱してしまったので、ここにまとめておきます。
まず、Gumperz(1982)によれば、コンテクスト化の合図とは、コンテクストの前提をシグナルするのに寄与する言語的形式の特徴すべてを指し、コードや方言、スタイルのスイッチ、プロソディ、定型表現、会話の開始・終了やシークエンスを伝えるさまざまなストラテジーが含まれます。また、『応用言語学辞典』では井出里沙子氏が、これを「場面における話し手の発話を聞き手が解釈する上で手がかりとなる言語・非言語伝達記号」と定義しています。
岡本(2016)が強調するのは、このコンテクスト化の合図が、あくまで話し手の「意図」に関わるものに限定されているという点です。聞き手はこれらの合図を利用して話し手の意向を推測しますが、話し手自身が意図していない振る舞いは含まれません。そう考えると、コンテクスト化の合図による解釈の方向づけとは、話し手のすでに決まった意図を、聞き手にシグナルするための装置だと言えます。
一方で岡本は、Langacker(2008)の「ドメイン*」概念を援用し、ドメイン・シフトのレベルは話し手の意図だけで完全には規定できないと述べています。たとえば対話中に視線を外したり咳払いをしたりすると、当座はコンテクストからの一時的逸脱として解釈されるかもしれませんが、それが続く場合には、咳払いが示す身体状況をめぐって「風邪ひいたの?」といった相手側の働きかけが生まれ、相互行為の中で別の意味へと回収されることもあります。こうした現象は、単に話し手の意図の有無だけでは説明しきれません。
そのため岡本は、意図レベルに留まる「コンテクスト化の合図」だけでは不十分であり、その上位層として、より一般的で柔軟な記述装置としてのメタ・コミュニケーションが必要だと指摘しています。
*『新編 認知言語学キーワード辞典』では、ドメインは「解放された知識領域」とされ、認知言語学における意味は、このドメインへの慣習的アクセスのプロセスに存在し、固定的な静的対象ではないと説明されています。
参考
岡本雅史(2016). 「コミュニケーションの『場』を多層化すること――メタ・コミュニケーション概念の認知語用論的再検討――」『社会言語科学』19(1), 38-53.
Gumperz, J. J. (1982). Discourse Strategies. Cambridge: Cambridge University Press.
Langacker, R. W. (2008). Cognitive Grammar: A Basic Introduction. Oxford: Oxford University Press.
辻幸夫(編)(2013). 『新編 認知言語学キーワード事典』. 研究社.
小池生夫(編集主幹)(2003). 『応用言語学辞典』. 研究社.
keywords
[メタ・コミュニケーション] [フレーム] [ドメイン] [コンテクスト化の合図]