#58 見せて話して共有する
後期の通年授業では、Show and Tell の個人発表の時間を設けています。通年クラスの場合、すでにクラスの雰囲気があたたかく、居心地がよい状態になっていることが多く、発表やその後のQ&Aタイムでも自由に意見や感想が出やすいからです。
この活動を取り入れるきっかけになったのは、井上(2017)がポライトネスに関する章の中で触れていた、アングロサクソン文化の子育て方針についての記述でした。
「アングロサクソンの文化の典型的な子育てのポリシーは、“独立せよ”“思っていることを言葉で表現せよ”というものであり、主に北米などで小学校低学年で行われるShow and Tell(好きなものを家から持ってきて、クラス全員の前で説明するパブリックスピーキングの訓練)が定着しているのもその表れであろう」
社会言語学の考え方をベースに英語の授業を展開したいと思っていた私は、この考えに共感し、ここ2年ほど授業に取り入れています。
改めてShow and Tellについて調べてみると、最初の言及はMerville(1954)にあり、その目的は多様に議論されてきたことがわかります。たとえば、「個々の子どもがグループの注目を集め、“語り手”になる機会を与える」(Cazden, 1985; Michaels, 1990)、「子どもが自分の関心や知識を共有できる」(Hogg, 2011)、「共通の関心をもつ仲間を見つける機会にもなる」(Danielewicz, Rogers, & Noblit, 1996)、「グループの前で話す自信やコミュニケーション能力を育てる」(Poveda, 2001)など、さまざまな視点から意義が示されています(Mortlock, 2014)。
Merville(1954)自身も、Show and Tellを単なる報告の時間にとどめず、子どもの内面と外の世界をつなぐ共有の学びの時間として位置づけています。
「An alert an resourceful teacher is able to pick these up quickly and lift the child's understanding so that he is stimulated into further thinking, discussing, and experiencing.(気づきのある柔軟な教師は、子どもの理解をすばやくとらえ、それをさらに深い思考や議論、体験へと導くことができる)」
また、Show and Tellのメリットとして以下のようにも書かれています。
「The sharing period offers the teacher countless opportunities to gain glimpses into the child's world of thinking and feeling and to help him relate these to his own experiences.(共有の時間は、教師にとって子どもの思考や感情の世界を垣間見る無数の機会を与えてくれる)」
Show and TellはShow and ShareやSharing Timeとも呼ばれており、その名の通り「見せて話す」だけでなく、「共有する」ことを重視する活動です。子どもの内面と外の世界をつなぎ、教師や仲間とのあいだで情報や感情を分かち合う場になっていることが、名前からも伝わってきます。
小さいころから「自分の感じたことを言葉で共有する」ことが自然に行われているというのは、その言語文化の中で、どのような姿勢や価値が求められ、育まれているのかをよく表しています。その背後にある意識の違いを、授業の中で学生たちと一緒に考え、楽しく共有していけたらいいなと思っています。
ちなみにこれまでで一番衝撃を受けたShow and Tellは、ヌンチャクを持ってきて振りを披露してくれた学生です。
参考
井上逸兵(2017).第6章 字幕・吹替訳ディスコースの社会言語学.『社会言語学』朝倉書店,pp.107–124.
Cazden, C. (1985). Research currents: What is sharing time for? Language Arts, 62(2), 182–188.
Danielewicz, J., Rogers, D., & Noblit, G. (1996). Children’s discourse patterns and power relations in teacher-led and child-led sharing time. Qualitative Studies in Education, 9(3), 311–331.
Hogg, L. (2011). Funds of knowledge: An investigation of coherence within the literature. Teaching and Teacher Education, 27, 666–677. https://doi.org/10.1016/j.tate.2010.11.005
Merville, G. (1954). More than show and tell. Childhood Education, 31(2), 70.
Michaels, S. (1990). The dismantling of narrative. In A. McCabe & C. Peterson (Eds.), Developing narrative structure (pp. 303–351). Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum.
Mortlock, A. (2014). Children’s narratives and show-and-tell: What the story books tell us about being known, being better, and being judged. He Kupu, 3(5), 38–45.
Poveda, D. (2001). La ronda in a Spanish kindergarten classroom with a cross-cultural comparison to sharing time in the USA. Anthropology and Education Quarterly, 32(3), 301–325. https://doi.org/10.1525/aeq.2001.32.3.301
keywords
[Show and Tell] [ポライトネス] [パブリック]