#55 ミドルコンテクスト
明治大学駿河台キャンパスで開かれた国際ビジネスコミュニケーション学会に参加してきました。今回は村田和代先生のご発表を拝聴するのが目的でしたが、それ以外にも興味深い発表が多く、とても充実した時間になりました。実務家の参加者も多く、企業合併の現場で生じるミスコミュニケーションなど、リアルなデータに基づいた報告を聞けたのが特に面白かったです。
佐藤武男先生の「外国企業との合弁会社での異文化理解と経営についての一考察」では、実体験をもとに日仏間のコミュニケーションの違いが紹介されていました。出資比率、取締役の人数、決議方法、競業避止条項の交渉、経営戦略の策定など、商慣習の場面ごとにどんなズレが生じるのかが語られており、フロアからは主観的すぎるのではという声もありましたが、異文化間でどこですれ違いが起きやすいのかを考える上で、とても勉強になりました。
印象的だったのは、資料の中でエリン・メイヤーがフランスを「高コンテクスト」と「低コンテクスト」の中間に位置づける“ミドルコンテクスト”として紹介していた点です。そのサポートとして挙げられていたのが、第二度(deuxième degré / second degré)という考え方。第一度が言葉どおりの意味を指すのに対し、第二度はその奥に潜む真の意図を意味し、言葉にされていない部分を含みます。この「第二度のメッセージ」はフランス文学の特徴でもあるそうです。第一度と第二度という二つの概念を同時に持ち、文脈によってどちらが前面に出るかが決まる…その構造自体に、「高」と「低」のあいだにあるミドルらしさが感じられるように思います。
日本語で直接「第二度」を論じた文献は見当たらなかったため、ネットで調べてみたところ、いくつか具体例が紹介されていました
「彼は二日前に車を買ってさ、昨日事故にあったんだ!なんて幸運なんだろう!」
「A:最近さ、ニューカレドニアに行ったんだ。海がとても綺麗でさ、魚も沢山いたんだよ!B:へえ、泳いだの? A:泳いでないに決まってるさ」(海に行って魚を見たは海に入ったことを示すが、泳いだと答えるのは当たり前すぎてナンセンスのため)
また、フランス人と結婚した女性の体験談として、義父から「猫のイラストのTシャツ」を見るたびに「僕は猫が嫌いだ」と言われて落ち込んだが、夫から「それは第二度=冗談として受け取らないと」と諭された、というエピソードもありました。
一緒に学会に行った友人の姉(フランス在住・フランス語堪能)にも確認してみると、やはりそうした文化があるそうです。言葉だけでなく、たとえば食事を用意するときに「わざと一人分だけ用意しない」といったふるまいも含まれるのではないかとのことでした。単なる皮肉とは違い、使われる場面や範囲が広く、独特の文化的背景を感じさせます。もっと掘り下げて調べてみたいテーマだと思いました。
さらに今回の発表の中では、文化的な違いとして「日本人は何か頼まれるとNOと言いにくく、いったんYESと答えて後でNOになることが多いのに対し、フランス人は逆に、最初はできないと言っておきながら、あとで実はできる、と言うことが多い」という研究結果にも触れられていました。日常のふるまいのレベルでこれだけ違いがあるのなら、ビジネスの現場でのコミュニケーションはなおさら大変だな…と思いました。
参考
メイヤー, エリン 著, 田岡恵 監訳, 樋口武志 訳. (2015). 異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養.
Triskel. “義父から「僕は猫が嫌いだ」と言われてしまう話 — 第二度の冗談?” Triskel Blog, https://triskel.blog.jp/archives/28666321.html
GoodGoutte. “フランス語で ‘second degré’ とは?例と解説” GoodGoutte, https://goodgoutte.tokyo/francais-second-degre/
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