#73 古典を読む(2)Benjamin Whorf
昨日の記事の続きで、今日もウォーフの論文をまとめていきます。ウォーフは、ホピ語と西欧語の比較から見えてくる重要な点を、次のように述べています。
"It also became evident that even the grammar of Hopi bore a relation to Hopi culture, and the grammar of European tongues to our own 'Western' or 'European' culture.(ホピ語の文法がホピの文化と関係しているのと同様に、ヨーロッパ諸語の文法も、私たちの“西洋”あるいは“ヨーロッパ”文化と関係していることが明らかになった。)"
さらに、言語と文化の相関が、時間・空間・物質・事柄などの概念に関わる語に見られることを次のように指摘しています。
"And it appeared that the interrelation brought in those large subsummations of experience by language, such as our own terms 'time,' 'space,' 'substance,' and 'matter.'(この相関関係は、経験を言語によって大きくまとめ上げる枠組み──たとえば“時間”“空間”“物質”“事柄”といった私たちの言葉──にも及んでいるように思われた。)"
このあとウォーフは、英語、フランス語、ドイツ語などのヨーロッパ諸語(Balto-Slavicや非インド・ヨーロッパ語を除く)をまとめて「Standard Average European(SAE)」と呼び、ホピ語との対照を詳しく行っています。
SAEを特徴づけるキーワードのひとつが objectify(モノ化・対象化する) という傾向です。一方で、ホピ語にはそのような傾向は見られません。
英語などのSAEでは、存在しない抽象的なものにまで「モノ化」の発想を適用しがちで、たとえば ten men と ten days のように、「日」という実体のないものも客観的に数えることができます。しかしホピ語では、plurals(複数形)や cardinals(数詞) は実際に客観的に存在するものにしか使われません。そのため、“they stayed ten days” を表すときは “they stayed until the eleventh day” や “they left after the tenth day” のように言い換えるといいます。また、“ten days is greater than nine days” のような比較も、ホピ語では “the tenth day is later than the ninth” という形で捉えるのです。
さらにSAEでは、境界が明確な名詞(individual nouns=可算名詞)と、境界をもたない名詞(mass nouns=非可算名詞)を区別します。ウォーフは、このmass nounの扱いにもモノ化の志向があると指摘しています。つまり、形のないものに形を与え、個体化する傾向があるというのです(a glass of water, a stick of wood など)。一方で、ホピ語にはmass nounという区別自体が存在しません。ホピ語ではすべての名詞が個体としての意味をもち、単数・複数の区別もあります。私たちの言う「水」や「木材」に近い語も、“vague bodies”(あいまいな実体)や “vaguely bounded extents”(ぼんやりと境界づけられた広がり)を指すといいます。それらは「輪郭や大きさがまったくない」というより、「はっきりとは定まっていない」存在として捉えられているのです。
また「周期(cycle)」の概念にも違いがあります。SAEでは、季節や時間(summer, morning)をモノのように扱い、in the morning や in this summer のように表します。しかしホピ語では、こうした語をモノ化せず、this summer にあたる表現は summer now や summer recently となるのだそうです。
他の例や全体のまとめはまた明日書きますが、現時点で感じるのは、ホピ語はその場で起きていること、実際に目にしていることを中心に言語化しているという点です。それに対して英語をはじめとする西欧語は、本来は異なるものを「同じ」とみなし、モノ化していく習慣的な思考に基づいていることを、改めて実感しました。
参考
Whorf, B. L. (2011). The relation of habitual thought and behavior to language. In Z. Hua (Ed.), The Language and Intercultural Communication Reader (pp. 40–49). London: Routledge. (Reprinted from Language, Thought and Reality: Selected Writings of Benjamin Lee Whorf, edited by J. B. Carroll, 1956, MIT Press.)
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[サピア・ウォーフの仮説] [モノ化] [習慣的な思考]