#71 人名の由来
中村桃子先生の『「自分らしさ」と日本語』を読んでいて、「アメリカの命名と日本の命名の違い」に目が留まりました。
日本では、漢字やひらがなの意味・音・字画を意識して組み合わせることで、新しい名前を作ることが多いのに対し、アメリカなどのキリスト教圏では、いくつかある聖人の名前から選ぶのが一般的だそうです。
この点をもう少し広く扱っているのが、堀田(2011)の記事です。人名や地名の語形・語源研究は「固有名詞学(onomastics)」と呼ばれており、堀田氏はその情報が充実したサイト “Behind the Name” を紹介しています(これがまた面白いサイトです)。概要ページ “History” では、英語史上の出来事とあわせて命名の傾向の変化が整理されています。
堀田を参考に簡略化してまとめると、古英語期の名前は主にゲルマン語(狭義では古英語)由来で、1066年のノルマン征服以降、Richard・William・Henryといったノルマン・フレンチ名が広まりました。13世紀以降は教会の推奨により、John・Mary・Peter・Paulなどのキリスト教的な洗礼名が一般化します。これらは古代ギリシア語・ラテン語・ヘブライ語に由来するものが多いそうです。16世紀の宗教改革ではカトリック的な聖人名が避けられ、聖書に基づく名前が多くつけられるようになり、17世紀の清教徒たちはAdam・Eve・Noahなど旧約聖書の名を好みました。18〜19世紀には古い名前の復活や、文学的・神話的な名前(Miranda, Wendy, Hector, Diana, Arthurなど)が登場し、現代では創作名や既存名の異綴り(Sidney → Sydneyなど)、他言語からの借用も見られるとのことです。
実際に “The Most Popular Names” のページで2024年のアメリカの名前ランキングを見てみると、
女性が1位 Olivia、2位 Emma、3位 Amelia、4位 Charlotte、5位 Mia。男性が1位 Liam、2位 Noah、3位 Oliver、4位 James、5位 Elijah。
一方、同年の日本の女性名ランキングは、紬・翠・凛・陽葵・芽依の順でした。男性名は、陽翔、凪、朝陽、暖、陽向の順です。「陽」の字が多い…。
英語名で2位にランクインしていたEmmaや、上には挙げなかった13位のLunaは日本語の名前としても最近見かけます。
中村(2021)は、こうした命名方法の違いが「同じ名前を持つ人」への感覚にも影響すると述べています。新しい名前を作る日本では、同じ名前、しかも同じ漢字の人に親近感を持つことが多いのに対し、アメリカでは「ジョン」が多すぎて、相手もジョンだと分かっても苦笑いするだけなのだそうです。
思い返すと、昨年度の授業でも同じ名前かつ同じ漢字の学生がいて、名簿でその名前を見たときからどんな学生かなと楽しみにしていたことを思い出しました。
今後は、日本語の人名の歴史についてももう少し調べてみたいと思います。
参考
中村桃子. (2021). 「自分らしさ」と日本語. ちくまプリマー新書.
堀田隆一. (2011, July 19). #813 英語の人名の歴史 [ブログ記事]. hellog~英語史ブログ. 慶應義塾大学. https://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2011-07-19-1.html
Campbell, M. (n.d.). Behind the Name: The etymology and history of first names. Retrieved October 20, 2025, from https://www.behindthename.com/