#69 授業名からみる捉え方
昨日取り上げたテキスト『World Adventures 映像で学ぶ世界の文化と英語』は、「国際英語」という授業の中で使用しています。どなたかの文献で読んだか、誰かに聞いた記憶があるのですが、この科目名が単なる「英語」ではなく「国際英語」となっているのは、英語のバリエーションを認める World Englishes の考え方を反映しているそうです(裏は取れていません)。
井上・堀田(2025)は World Englishes を「世界の複数の英語」と訳し、英語史上の視点からこの表現の意味を論じています。まず、そもそも最初から英語は多様なものであったことが紹介されています。これまで英語の多様性を指すときには dialects(方言)や varieties(種類)と呼んできましたが、近年ではその同じ現象を、単数形の English ではなく複数形の Englishes として表すようになってきました。そして、
"There are many varieties of English in the world."
から
"There are many Englishes in the world."
への言い方の変化に、ものの見方の転換が表れているというのです。
この Englishes という複数形を最初に使ったのは、アメリカのジャーナリスト H. L. Mencken だと言われています。彼は1910年の新聞記事の見出しで、自国で話されるアメリカ英語とイギリス英語の違いを指摘し、"The Two Englishes" と表現しました。
堀田はさらに、World Englishes の考え方が広まった背景として、Indian English や Nigerian English など国家的アイデンティティを表すため、また、それぞれの国の歴史・文化的背景に根ざした英語の存在を世界が認めるようになったこと、そして英米ブランドの力が相対的に弱まってきたことを挙げています。
同じ現象でも呼び名が変われば、見方も変わる。この考え方は、認知言語学にも通じます。呼称の変化に伴って世界の見え方が変わる、そのプロセスを追うこともまた、言語を学ぶ楽しみの一つだと思います。授業名の「国際英語」も、そうした変化の一端を映していると思うので、授業名の変遷なども見てみると面白そうです。
参考
井上逸兵・堀田隆一(2025)『言語学でスッキリ解決!英語の「なぜ?」』ナツメ社
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[World Englishes]