#61 相手の意向を問う誘い方
英語で依頼(「手伝ってくれない?」)や誘い(「一緒に飲みに行かない?」など)を表すときに、Do you want to help me? や Would you like to go for a drink? といった表現を使うのが少し苦手だなと感じることがあります。今日はその理由を少し掘り下げてみたいと思います。
実際、同じように感じている日本人学習者は多いようです。水島(2012)は、大学の英語クラスで「招待・勧誘」に関する発話行為の指導プロジェクトを行い、英語母語話者と日本人学習者の使う表現の違いを分析しています。ネイティブスピーカーは、相手の意思を問う Do you want to~? や Would you like to~? を多く用いる一方で、日本人学習者は Let’s~ や Shall we~? のような「呼びかけ」に近い表現を多用していました。つまり、そもそも「質問文を誘いとして使う」という発想自体が十分に共有されていなかったのです。指導を通して、学習者が徐々に「相手の意向を問う」表現を取り入れていく過程が観察されています。
興味深いのは、水島のプロジェクトで、指導前の段階では「無回答」や「非文」の比率が非常に高かったという点です。多くの学習者が「招待・勧誘」にふさわしい英語表現をすぐに思い浮かべられず、書けなかったことが明らかになりました。
また水島は、英語母語話者が誘う際には「相手個人の意思を尊重する形」でYes/Noの選択を委ねるのに対し、日本人学習者は「要請」や「呼びかけ」に近い言い方をすることで、自分の関与や歓迎の気持ちを強調する傾向があると述べています。
清水(2016)も、〈誘い〉という発話行為は、聞き手の行動の自由をある程度制限してしまうため、聞き手の「ネガティブ・フェイス(他者からの干渉を避けたい欲求)」を脅かす可能性があると指摘しています。そのため、誘うときには状況や関係性に応じて、丁寧さの度合いを調整する必要があるのです。
清水は、「やや間接的な表現」として
Do you want to~?, Would you like to~?, Do you fancy ~ing?, Would you be interested in ~ing?
などを挙げ、「非常に間接的な表現」として
I was wondering if you would like to ~ や I wondered if you’d be interested in ~ing
といった表現を紹介しています。
一方で、友人同士の会話ではより直接的な Let’s~, Shall we~?, How about ~ing?, We (or You) should~ なども自然に使われます。
たとえば、カジュアルな誘いなら (Do you) Want to come along?(一緒に行かない?) や、イギリス英語では (Do you) Fancy coming with me? などが自然で、くだけた場面でも相手の意向を尊重するニュアンスを残しています。このように、Do you want to~? は「相手の意向を問う聞き手志向の表現」として特徴的です。
新谷(2006)は、英語を母語とする留学生が日本語での勧誘・申し出を誤用する例をいくつか紹介しています。たとえば:
「先生、コーヒー、のみたいですか?」(Would you like to have some coffee?)
「窓を開けてもらいたいですか?」(Would you like me to open the window?)
「あなたは私に手伝ってもらいたいですか?」(Do you want me to help you?)
これらは英語を直訳したものであり、そこに感じる違和感を通して、英語と日本語の丁寧さの捉え方の違いが浮かび上がります。
また、笹川(1999)は「依頼」について、英語では「相手がどう思うか」を問う表現が多いのに対し、日本語では「相手の助力を願う」表現が中心であると述べています。北尾・北尾(1988)も、英語話者は相手に断る自由を残すことを前提とする一方、日本語では「~してくれませんか」といった定型の依頼が多く、選択肢を示す工夫はあまり見られないと指摘しています。
こうして見てみると、依頼や誘いの定型表現には、それぞれの言語文化の「他者との距離の取り方」や「関係性のあり方」が深く埋め込まれていることがわかります。私たちはそれを無意識に使っているけれど、その中にはコミュニケーションに対する文化的なエッセンスが詰まっているのだと感じます。
参考
水島梨紗(2012).日本人 EFL 学習者による発話行為「招待・勧誘(Invitation)」の習得について―大学英語クラスにおける協同学習の取り組みと効果の検証―.『札幌学院大学人文学会紀要』,(91),85–98.
清水崇文(2016).『心を動かす英会話のスキル:コミュニケーションの鍵・ポライトネス』.研究社.
新谷多枝・ニイヤタエ(2006).英語と日本語の丁寧表現.『奈良県立大学研究季報』,16(3/4),11–18.
笹川洋子(1999).アジア社会における依頼のポライトネス(for you or for me)について:日本語・韓国語・中国語・タイ語・インドネシア語の比較.『親和國文』,34,154–181.
北尾謙治・北尾S・キャスリーン(1988).ポライトネス―人間関係を維持するコミュニケーション手段.『日本語学』,3月号.
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