広島大学両生類研究センターの進化発生ゲノミクス研究グループにて、以下の研究を進めています。また、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)ツメガエル・イモリにて、ツメガエル生体リソース事業の運営(主に変異体・トランスジェニック系統)と普及に関する活動を行っています。
ツメガエルをモデルとした疾患関連変異の意義の解析
胚発生における遺伝子と環境の相互作用
ネッタイツメガエル近交系における表現型多型の遺伝的基盤
エピジェネティック制御に着目した器官再生の分子機構の解析
神経管をモデルとした上皮性器官の形成機構の解析
脳や心臓、消化管などの上皮性器官は動物の形態と機能の根幹をなす生体構造で、上皮細胞シートが管状・凹凸状の立体構造をとることで形成されます。私は中枢神経系の原基である神経管をモデルとして、上皮細胞の形態形成の分子機構の解析を進めてきました。その中で、ヒト遺伝病Opitz G/BBB syndromeの原因遺伝子で微小管結合タンパク質をコードするmid1が初期の神経組織で発現することを見出しました。さらに細胞生物学に基づく解析により、MID1タンパク質が類似タンパク質MID2やMID1/2結合タンパク質Mig12と協同して微小管構造を安定化すること、そして上皮細胞の伸長さらには神経管の閉鎖運動に寄与することを明らかにしました(Development, 2010)。
上皮細胞の形態形成では微小管に加えF-アクチン細胞骨格の動態変化が重要ですが、その制御には不明な点が残されています。私は神経管の閉鎖運動の低光毒性ライブセルイメージング解析により、この過程で細胞内カルシウムイオンの濃度が数十秒単位で変化することを見出しました。さらに画像解析やケージド化合物による刺激実験等により、カルシウムシグナルの活性化がF-アクチンの動態変化を介して頂端収縮を誘導することを示し、それが神経管の閉鎖運動を促進する機構の性質について数理モデル解析と統計解析を用いて提唱しました(Development, 2017)。
形態形成運動では細胞や組織レベルといった複数の階層で機械的な性質が連動して変化しますが、その詳細は十分に明らかにされていません。そこで上皮シートの屈曲運動を物理的・機械的な観点から理解するため、神経管の閉鎖運動の3次元数理モデルによるシミュレーション解析を行いました。その結果、頂端収縮と細胞伸長がそれぞれ神経板屈曲の方向決定と速度調節に関わることを示しました。加えて細胞伸長に神経管の最終形状を決定する予想外の機能があることをシミュレーションと胚を用いた実験の両方で明らかにしました(Biomech Model Mechanobiol, 2016)。
先端計測機器を活用した解析により、胚発生や器官再生現象の解明を進めています。これまでに、マイクロコンピュータ断層撮影(MicroCT)による両生類の軟組織の立体構造の可視化に成功し、ツメガエル幼生の終脳再生過程における脳形態の変化(Dev Growth Differ, 2023)とイベリアトゲイモリの心臓再生における瘢痕の消失過程(Dev Dyn, 2022)を明らかにしました。また、原子間力顕微鏡(AFM)やレーザー焼灼法による細胞・組織の機械的性質の解析により、脊索中胚葉が生み出す牽引力(Dev Biol, 2013)、マウス卵管(Biophys J, 2016)や大脳皮質(Front Cell Dev Biol, 2016; PLoS Biol, 2018)の機械特性、MAPK依存的なツメガエル胚細胞の硬化現象(Cell Rep, 2020)、マウス胚脊索の機械特性(Front Cell Dev Biol, 2022)の解明に貢献しました。
両生類は優れた器官再生能力を有しており、特にツメガエルの四肢はその再生モデルとして研究が進んでいます。私は大学院時代に四肢再生の初期過程に着目した研究を行い、四肢再生の神経依存性の性質を遺伝子発現パターンから明らかにしました(Dev Biol, 2005)。また独自に作製したトランスジェニックガエルの解析から、四肢再生に必須の細胞リプログラミング現象(脱分化)が転写調節因子をコードするprrx1遺伝子の発現により特徴づけられることや、MEK/ERK経路等の活性を必要とすることを明らかにしました(Dev Biol, 2007)。