広島大学両生類研究センターの進化発生ゲノミクス研究グループにて、以下の研究を進めています。また、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)ツメガエル・イモリにて、ツメガエル生体リソース事業の運営(主に変異体・トランスジェニック系統)と普及に関する活動を行っています。
全ゲノム重複(WGD)は遺伝子のコピー数を倍加させることにより、脊椎動物の進化において遺伝子機能の多様化を促進したと考えられています。しかし、脊椎動物の共通祖先で起きたWGDからは約5億年が経過しており、現生の脊椎動物を対象として重複遺伝子の進化過程を解析することは容易ではありません。私たちは、約1,800万年前に起きた系統特異的なWGDに由来する異質四倍体のアフリカツメガエルを主な対象として、Dry解析とWet解析を組み合わせた研究により、脊椎動物におけるWGD後の重複遺伝子進化の特徴を明らかにしようとしています。
脳や脊髄といった中枢神経系は、原腸形成を終えた脊椎動物胚の背側に形成されるチューブ状の構造である神経管に由来します。神経管は大規模な形態形成運動を経て形成されることから、脊椎動物の器官形成機構を理解するうえで優れたモデルの一つです。私たちは、細胞生物学、先端ライブイメージング、数理・物理学的手法を組み合わせた解析により、神経管をはじめとする上皮性器官の形成機構と、その破綻により発症するヒト先天異常に関する研究を進めています。詳細は、以下の「これまでの研究」をご参照ください。
次世代シーケンシング技術の発達により、希少疾患・未診断疾患に関連する遺伝子変異(バリアント)が多数報告されるようになっています。一方で、実験的な検証が十分に行われておらず、その臨床的意義が不明なまま残されているバリアントも数多く存在します。私たちは、臨床研究者との共同研究を通じて、こうした臨床的意義不明のバリアントの機能をツメガエルの胚発生をモデルとして検証しています。これまでに、Baraitser–Winter cerebrofrontofacial (BWCFF) 症候群の責任遺伝子であるβ-Actinに生じた新規de novo変異が、F-アクチン細胞骨格の異常な動態と関連し、それにより口唇口蓋裂を引き起こす可能性があることを明らかにしました(Hum Mol Genet, 2024)。
遺伝的均一性の高い近交系は、表現型多様性の遺伝的基盤を解明するうえで有用です。両生類研究センターでは二十年以上にわたる兄妹交配により、ネッタイツメガエルにおいて複数の近交系の作出に成功しています。また、これらの系統間には、さまざまな表現型多型が見出されています。私たちは、これらの表現型の定量解析とゲノムワイドな遺伝型解析を組み合わせることにより、近交系に見出された興味深い表現型の遺伝的基盤を明らかにすることを目指しています。本研究の成果は両生類における形質多様性の理解にとどまらず、脊椎動物に広く保存された遺伝子機能の理解を通じて、ヒト遺伝性疾患の発症機序の解明にも貢献することが期待されます。
両生類には9,000種を超える種が知られており、その形態、生理、発生様式はきわめて多様です。幼生から成体へと劇的に姿を変える変態、突出した器官再生能、さまざまな環境への適応や繁殖と密接に関わる特殊な形質など、両生類は脊椎動物の中でも独自性の高い生命現象を数多く示します。一方で、これらの両生類に特有に見える形質の背後には、四足動物に広く共有された発生プログラムの変化や再利用が関わっている可能性があります。私たちは、複数の器官を対象として、比較発生学、ゲノム解析、遺伝子機能解析を組み合わせることにより、両生類に特有の形づくりのメカニズムを明らかにし、その成果を通じて脊椎動物における形態進化の基本原理を理解することを目指しています。
ツメガエルやイモリをはじめとする両生類は、発生、再生、進化、疾患モデル研究などで優れた特性をもつ一方、遺伝子の改変技術や機能を操作するツールの整備は、他のモデル動物に比べて十分とはいえません。私たちは、複数の両生類モデルに応用可能な効率的な遺伝子改変技術の開発を進めることにより、特定の組織や細胞種で遺伝子発現や細胞動態を可視化・操作できる研究基盤の整備を目指しています。これらを通じて、ツメガエルとイモリを横断的に活用するクロスプラットフォーム型の両生類研究を推進するとともに、幅広い研究分野で利用できる新たな両生類リソースの創出に取り組んでいます。
脳や心臓、消化管などの上皮性器官は動物の形態と機能の根幹をなす生体構造で、上皮細胞シートが管状・凹凸状の立体構造をとることで形成されます。私は、中枢神経系の原基である神経管をモデルとして、上皮細胞の形態形成の分子機構の解析を進めてきました。その中で、ヒト遺伝病Opitz G/BBB syndromeの原因遺伝子で微小管結合タンパク質MID1をコードするmid1遺伝子が、初期の神経組織で発現することを見出しました。さらに細胞生物学に基づく解析により、MID1タンパク質が類似タンパク質MID2やMID1/2結合タンパク質Mig12と協同して微小管構造を安定化すること、そして上皮細胞の伸長さらには神経管の閉鎖運動に寄与することを明らかにしました(Development, 2010)。
上皮細胞の形態形成では微小管に加えF-アクチン細胞骨格の動態変化が重要ですが、その制御には不明な点が残されています。私は神経管の閉鎖運動の低光毒性ライブセルイメージング解析により、この過程で細胞内カルシウムイオンの濃度が数十秒単位で変化することを見出しました。さらに画像解析やケージド化合物による刺激実験等により、カルシウムシグナルの活性化がF-アクチンの動態変化を介して頂端収縮を誘導することを示し、それが神経管の閉鎖運動を促進する機構の性質について数理モデル解析と統計解析を用いて提唱しました(Development, 2017)。また最近、足場タンパク質のHomerが、機械的な張力を感知して局所的なカルシウムシグナルを引き起こすことでF-アクチン細胞骨格の収縮を調節し、神経管の適切な閉鎖運動を促進することを見出しました(Proc Natl Acad Sci U S A, 2025)。
形態形成運動では細胞や組織レベルといった複数の階層で機械的な性質が連動して変化しますが、その詳細は十分に明らかにされていません。そこで上皮シートの屈曲運動を物理的・機械的な観点から理解するため、神経管の閉鎖運動の3次元数理モデルによるシミュレーション解析を行いました。その結果、頂端収縮と細胞伸長がそれぞれ神経板屈曲の方向決定と速度調節に関わることを示しました。加えて細胞伸長に神経管の最終形状を決定する予想外の機能があることをシミュレーションと胚を用いた実験の両方で明らかにしました(Biomech Model Mechanobiol, 2016)。さらに、この研究で得られた周辺組織の硬さが神経管の閉鎖運動に与える影響に関する予測を検証するために、原子間力顕微鏡(AFM)を用いてツメガエル神経胚の弾性の組織間および経時的な変化を明らかにしました。また実験的検証により、中胚葉の硬さが神経管の閉鎖運動の進行に実際に影響を与えることを見出しました(Dev Growth Differ, 2024)。
先端計測機器を活用した解析により、胚発生や器官再生現象の解明を進めています。これまでに、マイクロコンピュータ断層撮影(MicroCT)による両生類の軟組織の立体構造の可視化に成功し、ツメガエル幼生の終脳再生過程における脳形態の変化(Dev Growth Differ, 2023)とイベリアトゲイモリの心臓再生における瘢痕の消失過程(Dev Dyn, 2022)を明らかにしました。また、原子間力顕微鏡(AFM)やレーザー焼灼法による細胞・組織の機械的性質の解析により、脊索中胚葉が生み出す牽引力(Dev Biol, 2013)、マウス卵管(Biophys J, 2016)や大脳皮質(Front Cell Dev Biol, 2016; PLoS Biol, 2018)の機械特性、MAPK依存的なツメガエル胚細胞の硬化現象(Cell Rep, 2020)、マウス胚脊索の機械特性(Front Cell Dev Biol, 2022)の解明に貢献しました。
両生類は優れた器官再生能力を有しており、特にツメガエルの四肢はその再生モデルとして研究が進んでいます。私は大学院時代に四肢再生の初期過程に着目した研究を行い、四肢再生の神経依存性の性質を遺伝子発現パターンから明らかにしました(Dev Biol, 2005)。また独自に作製したトランスジェニックガエルの解析から、四肢再生に必須の細胞リプログラミング現象(脱分化)が転写調節因子をコードするprrx1遺伝子の発現により特徴づけられることや、MEK/ERK経路等の活性を必要とすることを明らかにしました(Dev Biol, 2007)。