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2020/11/27

論文 Spatial optimization of invasive species control informed by management practice

(管理の実施によって学ぶ外来種防除の空間最適化 )の解説


投稿論文が長い年月をかけてようやくEcological Applicaitonsにアクセプトされました。外来種管理の実施によって得られ、蓄積される捕獲記録に注目し、それを生かして効果的な防除戦略を求めるという内容です。


概要

本研究では過去の防除記録情報から状態空間モデルを使用して、捕獲努力量配分の空間明示な最適化のための新しいフレームワークを考案しました。効果検証のためのモデルケースとして、9年分の長期防除記録がある千葉県印旛沼で行われている外来種カミツキガメの防除事業に本研究の手法を適用しました 。防除地域の一部であり高密度地域として知られる鹿島川水系の個体群を対象にしました。状態空間モデルの結果により、地域内で増加率や環境収容力に空間的な偏りがあることが分かりました。また、本地域全体の個体群密度の平衡状態を最小化するような努力量配分を推定したところ、最適な努力量配分は環境収容力の高い場所に集中する結果となりました。そして、千葉県が定義している暫定的な目標密度(CPUE<0.03)を達成するためには、本地域における総努力量を2016年次の約4倍以上にする必要があることが分かりました。本研究手法は、野外でのモニタリングデータが利用可能な場合に適用できるため、わな用いる野生生物管理および害虫駆除などに応用が可能です


背景

タイトルにもあるspatial optimization(空間最適化)とは、ある目的(例:限られた資源での個体密度の最小化)を達成する、最適な資源配分戦略を求めるという概念です。現実にはお金/労働力/材料などの資源は往々にして限られていますので、現実的かつ効果的な外来種管理を実現可能にする上で大変強力な手法だと考えています。しかし、空間最適化には、増加率などの個体群動態パラメータや捕獲率を知る必要があり、短期間で労働集約的な調査が必要でその実装は困難でした一方で、長期の時系列データは増加率などの個体群動態パラメータを推定する上で有用であり、観測時に発生する観測誤差と増加率に関する生態的な誤差を適切に分けて注目したい真の状態(密度や個体数)を追うことができる状態空間モデルでその真価を発揮してきました。そこで、外来種管理にて自然な形で蓄積される捕獲記録を状態空間モデルで解析して個体群動態パラメータを求め、その結果を使って空間最適化を行うというのが、本研究のアイデアになります。


モデルケース:カミツキガメ防除への適用

カミツキガメは千葉県印旛沼水系にて定着が確認されている米国産の淡水生のカメで、獰猛な性格で噛む力が非常に強く、人間の健康へ影響を及ぼす可能性があることから、環境省によって「特定外来生物(※1)」に指定されています。また、本種は雑食性であり、水生植物や甲殻類、魚類など、その餌の種類は多岐に渡ることから、在来生態系に脅威を与えると予想されるため、千葉県は被害のリスクを下げるために捕獲わなで防除しています。

本研究は、千葉県が実施している防除事業で得られた9年分の捕獲記録を分析しました。対象地域は千葉県北西部に位置する印旛沼水系の一部の鹿島川水系です。本水系は生息密度が高い地域として知られており、本水系全体に及ぶ防除事業は2008年から千葉県によって行われており、長期の捕獲記録があります。そこで本研究では、過去の長期防除データ(2008年~2016年)を、河川を200m毎に75箇所に分けてそれぞれの場所にて集計・解析し、個体群成長に関わるパラメータを推定しました。さらに、推定結果を用いて、研究対象地域のカミツキガメを最も減らすような最適わな配分を求めました。

 結果についてですが、2008-2016年までの解析では、常に防除開始時以上の努力量を投資しているにもかかわらず一定の減少傾向が見られないことがわかりました。統計分析によりこのメカニズムを明らかにした結果、本研究地域のカミツキガメは増加率が高いことに加え、密度効果が強くカミツキガメの個体群を制御していることが分かり、防除によって密度が減少すると密度効果が緩和されて増殖率が上がってしまうことが減らし続けるのが難しい原因の1つだとわかりました。また、何も対策しなかった時の密度(環境収容力)は場所によって大きな違いがあり、地域内で最大約2.4倍の差がありました(これは論文には書いていません)。上記の防除による種内競争の緩和のメカニズムに加えて、環境収容力の高い所では増加率が高いため、個体数を減らし続けるには大きな努力量が必要となってしまいます。そのような状況にある印旛沼水系のカミツキガメは実に厄介であるということがわかりました。

それでは低密度化は無理かというと、そうでもなさそうです。捕獲作業はカミツキガメの密度を低く抑える効果があることも統計的に明らかになりました。千葉県が定めている目標低密度CPUE (Catch per unit effort: ここでは単位努力量当たりの捕獲数)< 0.03を鹿島川水系で達成するためには、2016年比の4倍の捕獲努力量が必要になることがわかりました。防除効果があることと合わせると、カミツキガメの増加率が高いために十分に抑え込むには過去の捕獲努力量では絶対量が足りていないことがわかりました。この4倍の総努力量での最適な配分でわなをかけ続けたときの個体数の変化をシミュレーションで計算したところ、何もしないときの状態からスタートして防除を始めるとすぐに個体数を抑え込むことができることがわかりました。これは十分な捕獲努力量を維持すれば長い時間を必要とせずにすぐに低密度目標を達成できることを示しています。


追記

特定外来生物カミツキガメの防除は大規模な外来種管理の取り組みです。鹿島川水系にて低密度目標値を達成するためには、大きな捕獲努力量が必要となることがわかりました。今後、防除記録が十分な蓄積され次第、印旛沼水系全体でも評価をする必要があります。現在、千葉県は大幅に総努力量を増やし、鹿島川水系を含む防除地域全体にて個体数の減少傾向が見え始めているようです(千葉県リンク:)。このまま低密度化へ向かうように、今後注意深く個体群動態を追う必要があります。本研究で開発した方法を用いることで、新たな捕獲記録に基づいて外来生物の状況を随時把握し、管理目標を達成するために必要な資源量やその配分を計算することが可能になりました。それにより、「為すことによって学ぶ」外来生物管理の実現につながることが期待されます。また、カミツキガメの例のように、目標達成に必要な予算を推定することができるため、予算案の明確な根拠を示す手法として用いられることが期待されます。捕獲記録が利用可能であればよいため、近年各地で問題となっているシカやイノシシなどの獣害対策にも応用可能だと考えられます。


最後に

本研究は大変多くの方々のお力添えによって論文になりました。共著者のみなさま、共同研究としてデータの利用をご快諾いただきました千葉県生物多様性センターのみなさまには大変深く感謝しております。この場を借りてお礼申し上げます。

注釈

※1 特定外来生物生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるものの中から環境省によって指定される海外起源の外来生物。その危険性から特定外来生物は原則として輸入や飼育栽培、運搬が禁止されている。