ナッジについて知っていくと、いろんな難しそうな用語がたくさん出てきます。
〇〇理論や〇〇効果などの言葉もたくさん出てきます。
ただ、それらの理論や効果は、道具として使っていくのがナッジを作っていく上では便利そうだと思っています。
ナッジは行動誘発のための情報設計法と言えます。
そのため、ナッジは情報が行動につながるまでのプロセスのステップごとに考えていくと行動変容につながりやすいです。
では、情報が行動につながるまでのプロセスとはいったいどのようなものでしょうか。
マーケティングの分野では、古くから次のプロセスが知られています。
頭文字をとってAIDAモデルと呼ばれています。
情報に気づく(Attention)
情報を得る(Interest)
動機付けられる(Desire)
行動する(Action)
まず、Attentionです。情報に気づいてもらえなければ、どれだけ素晴らしい情報であっても役割を果たすことができませんね。
次に、Interestです。情報がそこにあるということに気づいても、チラ見で終わってしまっては伝えたいことが伝わらないかもしれません。床屋さんの前のクルクルのように、動いているか止まっているかが、開店・閉店を意味しているような場合なら、この段階で終わっても伝えたい情報は伝わるかもしれません。
三つめがDesireです。情報を解釈して、情報が求めている行動をやってみようと感じてもらえるかが重要です。
そして最後がActionです。情報を提供することの目標は、このActionの発生です。
それでは、情報が発信されてから人を動かすまでのプロセスを表すAIDAモデルをフレームに用いて、AIDAモデルの各プロセスでのナッジの使い方や考え方を紹介していきます。
普段私たちは、身の回りにある様々な情報のうち、私たちはあるものには注意を向け、あるもには無視しています。
気づくほどに刺激の強い情報もあれば、気づかれない程度に刺激の弱い情報もあるのですね。
刺激!?
それらの情報は、何を刺激しているのでしょう?
ポスター、看板、ボタンは何を刺激しているのでしょう? お店の音楽、クラクション、電話の呼び出し音は何を刺激しているのでしょう? 金木犀があることに気づくのはどんな刺激を受けているからでしょう?
視覚刺激、聴覚刺激、嗅覚刺激がそれらに該当しそうです。
ほかにも接触に関する圧覚刺激もありそうです。
情報と言われるとついつい視覚刺激を連想してしまいますが、刺激を受け取るのは人の感覚器官であるということに着目すれは気づかれる程度に大きな刺激の情報を作るアプローチはさまざまにありそうです。
また、同じような刺激でも、お店の音楽には注意を向けなくても、店内アナウンスには注意を向けてしまいます。新聞記事に自分の在籍する会社のことが書かれていると気づきますが関心の低い分野の記事には気づきもしないかもしれません。
情報の内容も気づきの要素になりそうです。
それでは、私たちが注意を向けがちな情報の特徴を、二つの視点から考えてみます。
変化
性質
私たちが感じる変化について考えてみました。
私たちは、近づいてくる車に気づきますし、クラクションを鳴らされれば気づきます。台所でパチパチと音が鳴れば気づきますし、焦げ臭いにおいがしてきたら気づきます。
このような気づきを感覚器官への刺激の変化という視点から見ると次のようになります。
私たちは、コマ送りの視覚における過去の画像と今の画像の違いに気づきますし、音圧れ別の急激な変化にも気づきます。普段聞いている音とは異なる音にも気づきますし、普段かがないにおいを検出したらそれにも気づきます。
私たちの脳内での情報処理は刺激の変化に着目するようになっています。
このような特徴を使うと、気づいてもらいやすい情報を設計することにつながるかもしれません。
私たちが気にしてしまう情報の性質について考えてみました。
私たちは、自分の名前を呼ばれれば気づきますし、自分の在籍する会社の名前が新聞に載っていると気づきます。怒った顔の人や驚いた顔の人、包丁やハサミからも目が離せなくなってしまいます。
このような刺激を、情報の性質に基づいてみてみると以下のようになります。
私たちは、私本人に関する情報を聞けば気づきますし、見ても気づきます。また、私の生命の維持に近づく脅威を教える情報を優先的に情報処理します。
私たちの脳内での情報処理には優先順位があるようです。
この優先順位に基づいて情報を設計すると、見てもらいやすい情報を作ることにつながるかもしれません。
私たちが、つい関心をもって心動かされてしまう情報ってどんな情報でしょう。
おなかがすいているときには、おいしいにおいにウキウキします。
現実だろうがVRだろうが、高層ビルの最上階から下を見下ろすのはヒヤヒヤします。
これらのような、だれもが同じように心動かされてしまう情報もあるかと思えば、ある人の心は動かせても別の人の心は動かせないような情報もあります。
私にとっては熱量のある人との触れ合いは力をもらえる気がしてとても心動かされる情報ですが、別の人にとっては心動かされるような情報ではないかもしれません。
私にとっては小説を読むことは心に潤いを与えてくれるような気がしてとても心動かされる情報ですが、別の人にとっては関心のない情報なのかもしれません。
1.自己実現の欲求
「プログラミングの技術を身につけたい」や「英語で話せるようになりたい」など、自分の個人的な目標に向かう動機です。
2.承認欲求
誰かに認めてもらいたいという欲求です。「イイネ!」がもらえるとうれしいですよね。
3.所属と愛の欲求
独りぼっちより、チームのメンバーでいるほうが安心できます。
4.安全欲求
健康や経済的な安心感、欲しいですよね。
5.生理的欲求
誰もがおなかすきますし、誰もが眠たくなります。
おなかがすいていれば、勉強したいという気にもなりませんね。
生理的欲求や安全欲求など、より下層の欲求が十分に満たされていないと、より上層の欲求を満たそうという気持ちは続かなそうです。
つまり、より下層の欲求ほど、幅広い人の関心を得られやすいのです。
また、より上層の欲求ほど、出現しにくく個人差も大きいのです。
この欲求を満たすような情報を提供できると、関心を持ってもらいやすいと思います。
ナッジとしてよく語られるのが、この動機を高める方法です。
意思決定の偏りに着目する行動経済学が主に対象としているのも、この段階です。
動機を高めるための理論では、人の情報処理の特性に合わせて以下の二つの考えた方ができます。
システム1
システム2
システム1、システム2と言われても、何のことだかよくわかりませんね。
システム1とは情報を直感的に処理する方法です。
システム2とは情報を吟味して処理する方法です。
具体的に言うと、フードコートで今日はフライドポテトが食べたいとおもってハンバーガー屋さんに並ぶのがシステム1で、今日の晩御飯は蕎麦の予定だから同じ麺類のうどんはやめておいて和食屋さんは調理時間が長いから避けておいてフライドポテトを食べたのは1か月前だからそろそろ食べても飽きは感じないだろうし食品の提供も早いはずだと考えてハンバーガー屋さんに並ぶのがシステム2です。
印象で決めるのがシステム1で、テストを受けるように考えるのがシステム2とも言えます。
人は、根っからの面倒くさがりのようです。
普段のお買い物の時から選挙で投票する人を決める時まで、印象で決めていることがとても多いです。
その印象を工夫するような介入で、人の意思決定をより良い方向に向かわせようとするのが、システム1に着目したナッジです。
情報をじっくり解釈したとしても、人の意思決定には大きな偏りが生じます。
その点をついた介入で、人の意思決定をより良い方向に向かわせようとするのが、システム2に着目したナッジです。
ほかにもいろいろな理論や考え方がありますが、それはそれぞれ詳しくまとめてある資料にお任せします。
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