浅尾 泰彦
タイトル:マグニチュードの幾何学的解釈
アブストラクト:正定値対称行列Zがあったとき、正則行列Vを用いてZ=V^tVと表せることは標準的な線形代数の知識があればわかる。さらにZの対角成分が全て1であったとき、Vの各列ベクトルは単位球面上に分布する。Vが正則であることから、列ベクトルたちの張るアフィン空間は余次元1であり、このアフィン空間は単位球面から余次元1の部分球面を切り取る。実はこの部分球面の半径をRとすれば、Zのマグニチュードは(1-R^2)^{-1}と表される。この視点に立つと他のマグニチュードに関わる量が幾何学的に解釈できることをこの講演では説明する。また負型のn点距離空間のマグニチュードがn未満であることを証明する。これはGomi-Meckes (2025)が提案した問題の解決となる。さらに正定値でない一般の対称行列に対しても、球面半径の代わりに擬球面の断面曲率を用いることで同様の公式が成り立つことを紹介する。この講演は五味清紀氏との共同研究に基づく。また正定値の場合の公式は、ほぼ同時期にKarel Devriendt氏によっても得られていることを申し添えておく。
今井 淳
タイトル:相似行列の固有値による空間の識別
アブストラクト:マグニチュードは相似行列の逆行列の全成分和であるが、逆行列をとる、という操作は、多様体での対応物を考えるときの難しさの一因ともなっている。そこで、それ以外の操作で何が分かるのかを調べる。まず、相似行列の固有値または固有多項式を考える。形式的マグニチュードの係数は k-パスを用いて表すことができたが、固有値はk-サイクルを用いて表すことができる。このことを用いると、ジェネリックな有限距離空間は相似行列の固有値で識別できることが分かる。ジェネリックな空間は、Roff-Yoshinaga のモジュライ空間で開かつ稠密である。グラフに限っても、隣接行列の固有値(グラフのスペクトル)よりは強くグラフを識別する。また、相似行列の確率(遷移)行列についての実験結果も報告する。
入谷 亮介
タイトル:空間構造を持つ群集モデルの生物多様性指標
アブストラクト:Hill数は、従来の多様性指標を包含する一般化であると同時に、適切な公理に基づいて構築された整合的な多様性指標である。Hill数の一般化として Leinster–Cobbold が導入した指標(HLC 指標)は、生物種同士の近さを組み込むことが可能な多様性指標であり、適切な条件のもとでは、その最大化問題の解が magnitude を与えることが知られている。直感的には、HLC 指標および magnitude は、一つの群集に注目したとき、その群集に属する生物種の「有効な数」を与える量として理解できる。一方、実際の生物学的データでは、空間的に離れた(しかし、移動分散などを通じて相互作用をもつ)複数の群集に注目し、それらからなる「メタ群集」の多様性を評価することが重要となる場面も多い。本講演では、まずこのようなメタ群集モデルにおける生物多様性指標とその生物学的な意味について概説する。続いて、HLC 指標や magnitude の枠組みを用いて、空間的な生物多様性(メタ群集の「ベータ多様性」)を推定・解釈するための理論をどこまで構築できるか、今後の展望を主眼として議論したい。
狩野 隼輔
タイトル:Internal blurred magnitude homology: its stability and application
アブストラクト:Persistent homologyとの関連からOtterによって導入されたblurred magnitude homologyは、persistence moduleとなることから、そのpersistence diagramを考えることができる。一方、グラフのmagnitude homologyの性質として、頂点ペアによってhomology群が直和分解することが知られていたが、blurred magnitude homologyはこれを満たさない。本講演では、頂点ペアによる直和分解を持つように改良したinternal blurred magnitude homologyを導入し、そのpersitence diagramの安定性を解説する。時間が許せば、この頂点ペアによる分解が応用上有用であることも紹介したい。本講演は東北大学の多田駿介氏との共同研究の内容を含む。
五味 清紀
タイトル:マグニチュードと行列不等式
アブストラクト:正定値行列については, Loewner順序についての様々な行列不等式が知られている. 安定正定値な有限距離空間のマグニチュードは, 正定値行列を経由して定義されているため, 行列不等式からマグニチュードの不等式が得られることがある. 本講演では, こうしたマグニチュードの不等式について, Meckes氏との共同研究で得られた結果を紹介する. 具体的には, (A) マグニチュードの上限, (B) ある種の劣加法性, (C) ある種の凸性, を紹介する. 時間が許せば, 関連した話題についても触れる予定である.
平良 晃一
タイトル:Gimperlein-Goffengの論文のsurvey: Analysis of magnitudes on compact manifolds and the large scale limit
アブストラクト:マグニチュード関数は,距離のスケールをパラメータに持つような距離空間の不変量の族である.マグニチュード関数のスケールを大きくした時の極限(LSC) を考えると,大まかには距離空間の「体積」を表していると考えられ,Leinster-Willertonはその漸近展開の係数がintrinsic volumeで表されることを予想した.その後,MeckesやGimplerlein-Goffeng達の研究によって,コンパクト多様体上のマグニチュード関数の解析が可能になり,彼らはコンパクト多様体上におけるMagnitude関数がLSCで漸近展開を持つことを示した.更に,その主要項のいくつかを幾何学的な表すことに成功し,Leinster-Willertonが部分的に正しいことを示した.しかし,彼らの手法はFredholm理論や擬微分作用素とそのパラメトリックスの幾何学的な構成を用いた(専門外の人にとっては)非常に難解なものである.この講演では,彼らの主結果を紹介した後,証明の核となるアイデアについて述べる.
田丸 博士
タイトル:Nilpotent Lie algebras obtained by quivers and Ricci solitons
アブストラクト:クイバーは、多重辺とループを許す有向グラフである。本講演では、サイクルを持たない有限クライバーから冪零リー代数を構成する方法を紹介する。特に、対応する単連結リー群は左不変リッチソリトン計量を許容する。本講演で紹介する方法と同様に、何らかの(有限な)対象から冪零リー代数を構成することができれば、興味深い研究が展開できる可能性が大いにある。また、関連する進展中の研究についても紹介する予定であり、その中で左不変リッチソリトンを許容するための条件に「positive weighting」が登場することにも触れたい。本講演は、溝口史華、北山陽菜との共同研究に基づく。
沼田 泰英
タイトル:マグニチュードのデータ解析への応用とランダムな点配置に対するマグニチュードの分布について
アブストラクト:マグニチュードはその点配置が大雑把には何点集合と思えるかという情報を記述していると言われることがある.この点に着目しデータ解析にマグニチュードを応用する試みを紹介する. また, その様な利用をする際に必要となるランダムな点配置に対するマグニチュードの分布に関する問題を提起し, 例を紹介する.
深谷 友宏
タイトル:粗代数的位相幾何学の紹介
アブストラクト:粗幾何学とは空間を遠くから眺めた時に見えてくる構造に着目する幾何学であり、この観点からは、コンパクト多様体の基本群とその普遍被覆は自然に同一視される。特に整数全体(格子点)と実数全体(数直線)とが同一視される。Roeは開多様体(典型例は普遍被覆)上の指数定理の研究において、今日Roe代数と呼ばれる作用素環を導入し、そのK群の元としてDirac作用素の指数を定式化した。興味深いことに、Roe代数のK群は多様体の粗幾何学にしか依存しない。Higson, Roe, Yu等はRoe代数のK群を計算するために、代数的位相幾何学におけるホモロジーの公理やホモトピーの概念等、を粗幾何学の枠組みに移植した。この講演では、こうした粗代数的位相幾何学について解説を試みる。
雪田 友成
タイトル:コクセター系の増大度級数と増大度の連続性
アブストラクト:群Gの有限生成系Sに関する語の長さについて元の個数を数える関数を増大度関数という。増大度関数の定める母関数を増大度級数といい、その収束半径の逆数を増大度という。本講演では、コクセター系の増大度級数の明示式について説明し、コクセター系の全体に適当な距離を定めた空間の性質について紹介する。また、有限群上の語距離のマグニチュードは増大度級数を用いて表されることなど、幾何学的群論におけるマグニチュードの応用について考えられることを話したい。
吉永 正彦
タイトル:マグニチュードの経路和表示のボレル収束性について
アブストラクト:有限距離空間のマグニチュードについて、経路和表示という無限級数による表示が知られている。ただし、この級数は一般には発散級数であり、収束するためには、距離空間が「それほど密ではない」ことが必要である。経路和表示の収束の十分条件として、Leinsterは "Scattered metric space" という距離空間のクラスを定式化している。
発散級数に対して「極限」を定める研究は古くから行われており、代表的なものとして「ボレル収束(総和法)」という概念がある。例えば、$1-2+4-8+16-...$という無限級数は、普通の意味では発散するが、$1/3$にボレル収束することが知られている。本講演では、マグニチュードの経路和表示のボレル収束性に関して議論したい。特に、経路和表示がボレル収束するための必要十分条件が、距離空間が「正定値距離空間」であることであり、そのボレル極限がマグニチュードと一致することを紹介する。
若月 駿
タイトル:マグニチュードホモロジーと多元環の表現論
アブストラクト:Asao-Ivanovが示したように,有限距離空間Xのマグニチュードホモロジーは,導来関手Torを用いてTor^σX(ℤ^N, ℤ^N)と表すことができる.ここで,σXは自由加群ℤX^2に対して積をXの距離関数を用いて定めたものであり,次数つき多元環の構造を持つ.これによりマグニチュードホモロジーを多元環の表現論を用いて研究することが可能となる.本講演では,マグニチュードホモロジーと多元環の表現論の関係について,特にpath algebraやKoszul dualityを中心として紹介する.