文学館研究会

文学館研究会について

文学館とは

一般に博物館の一形態と考えられていますが、文学を資料収集の中心的な主題として、それに特化した活動を行っているという点に大きな特徴があります。一方で図書資料、雑誌・新聞などの逐次刊行物、直筆原稿などの文字資料を収集している点で、文学研究者に対する図書館としての機能も担っている機関になっています。あるいは直筆原稿などの資料については、文書館としての機能と表現することもできるでしょう。すなわち文学館は、博物館・図書館・文書館のような既に社会的に広く認識されている施設の性質を併せもった活動を行っています。

文学館研究について

そのような文学館という施設に関する研究は、これまでのところ残念ながらそれほど行われておらず、図書館学・博物館学いずれの立場からも積極的な論考が出されておりません。それはなぜかというと理由は簡単で、単に文学館そのものが研究対象として認識されておらず、図書館学・博物館学に関連する問題として俎上に載せられてこなかったためです。図書館学者の認識している図書館の形態は、一般に公共図書館・大学図書館・学校図書館・専門図書館などであり、特に公共図書館・大学図書館・学校図書館を考察対象とすることに意識を向ける研究者の数が多いのが現状です。博物館学者による認識の程度は詳しくは把握しておりませんが、博物館学の立場から文学館について論じた研究の少なさを見る限り、美術系・歴史系・自然科学系の博物館に比べても言及されることが稀な領域なのではないかと感じています。文書館学者による認識も、おそらく図書館学者や博物館学者の状況とそれほど変わりはしないでしょう。また、文学館は文学研究者にとっても重要な研究拠点でありますが、文学研究者は文学館の所蔵している直筆原稿や書簡などの資料に記された内容に興味を持っており、それらの資料を収集・保存する文学館という仕組み自体に興味を持つことは稀でしょう。

つまり文学館という実体は存在するにも関わらず、文学館そのものについて研究しようとする人がほとんど見当たらないという状況にあったわけです。長年にわたって図書館学・博物館学・文書館学・文学研究者のいずれの立場からも活動内容に注目を浴びないまま、確固とした活動理念や研究理論を構築することができず、時間だけが流れすぎてしまっているのが文学館という施設なのではないでしょうか。

1995年に全国文学館協議会という研究団体が発足しており、文学館の現場の職員を中心として定期的な研究会議が催され続けています。その活動の大きな目標の一つに、これまでの図書館学や博物館学の理論を踏まえた上で「文学館学」の確立を図ろうとする動きがあります。その活動年数はわずかに十数年でありますが、その僅かな数字がこれまでの文学館研究の蓄積年数そのものです。つまり、学問的な蓄積がほとんど見当たらない分野になっているわけです。戦前から脈々と続く図書館学や博物館学の学問的な蓄積に比べると、いかに文学館学の土台が貧弱であり、それを確立させるに至るまでの道のりが長い状況にあるのかがわかるでしょう。

文学館研究者が不在のなか、同協議会は現状においては唯一の研究活動の場になっています。その内容は主に各館を代表する職員の方々の意見交換・調査報告・問題提起という形態を取っており、会議を催した上で団体としての意見を取りまとめたようなものになっています。しかしそこはあくまで文学館の職員がそれぞれの館を代表して参加する場であり、文学館に関する個人的な研究発表を行うような場所にはなっておりません。また、そのような全国文学館協議会を始めとする現場の動きに対し、図書館学者や博物館学者がそれに呼応しようとする動きも見られません。このままの状況では、全国に大小含めて590館存在する文学館という施設を広く見渡し、それらの機能や特徴を他館と比較しつつ一般化して語るような視点は出てこないと感じています。

私はここ数年の間、そのような個人レベルでの文学館研究報告の場がいずれ必要になるだろうという思いを抱き続けてきました。文学館という施設は確かに図書館や博物館の主流の形態ではないのですが、その類縁機関として活動している以上、図書館学や博物館学に携わる者が安易に見過ごしてはならない領域であるとも思っています。そしてその思いは、月日が経つごとにますます強くなる一方です。

文学館研究会の展望

そこで私は文学館研究会という団体を立ち上げることにしました。文学館に関する調査研究報告を行う研究団体です。団体と言いましたが、現状では会員が私一人だけの個人的な活動にすぎません。

さっそく研究会活動の第一歩として、文学館研究の基礎資料として役立てられるように「文学館一覧」というページを作成しました。現状では時間の都合上、HTML形式でしか提供できておりませんが、他者によるデータの再利用のためにも、いずれは他のファイル形式でも提供できるようにしたいと思いますので、どうぞ気長にお待ち下さい。先行研究として木原直彦氏の調査報告を利用させていただきましたが、いくつか私のほうで追加したデータもありますし、関連サイトへのリンクにも注意を払いながらインターネット上でこれだけの文学館数を一覧にまとめて提供しているサイトは、他には見られないものと自負しています。

指定管理者制度など、図書館や博物館が財政の面で厳しい時代になっていることはよく耳にしますが、文学館も例外ではありません。文学館を取り巻く状況が徐々に悪くなっていることは、文学館の現場で働いていらっしゃる職員の方に話を伺えばひしひしと感じ取ることができます。昨年には大阪府立国際児童文学館と府立中之島図書館との統合が検討されるなど、今日では文学館そのものの存続問題も出てきました。そのような厳しい社会状況に対し、研究会として何らかの提言を発信していけたらと思っています。

今後とも本研究会をよろしくお願いいたします。

2009年1月26日

文学館研究会 代表・岡野裕行